旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


読書

村上春樹『街とその不確かな壁』感想

村上春樹『街とその不確かな壁』 その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。 村上春樹6年ぶりの長編小説。なんだかんだで新作が出るたびに気に…

2023年5月の読書記録。ケチる貴方、教誨、回樹、ある男など。

8月になったところで、今さらながら5月の読書の振り返り。前月分をすぐに振り返るというまっとうなスケジュールに、果たして年内のうちに戻せるのかどうか…。5月は7冊読んだ。かっこ内の数字は今年の読了冊数。 『ケチる貴方』石田夏穂(29) 身体性をテ…

2023年4月の読書記録。さよならドビュッシー、ルーティーンズ、爆弾、黄色い家など

3ヶ月前の記憶をさかのぼり、なんとかリアルタイムに追いつこうと焦りながら記す。4月は8冊読んだ。中山七里にハマってたなー。この期間でいちばんおもしろかったのは、小川哲『君のクイズ』。2023年になってから小川哲を推しまくりである。数字は今年の…

2023年3月の読書記録。嘘と正典、三浦しをんのエッセイなど5冊。

2023年3月の読書記録。いま7月だけどな。毎月書こうと思ってたのに、ほったらかしのまま4ヶ月が経過していた。わーお。数字は今年の読了冊数。 『嘘と正典』小川哲(16) 『地図と拳』『ゲームの王国』『ユートロニカのこちら側』をたてつづけに読み、小川哲…

江戸の市井の暮らしと本への情熱に引き込まれる。青山文平『本売る日々』感想

時は文政5(1822)年。本屋の“私”は月に1回、城下の店から在へ行商に出て、20余りの村の寺や手習所、名主の家を回る。 江戸期のあらゆる変化は村に根ざしており、変化の担い手は名主を筆頭とした在の人びとである、と考える著者。その変化の担い手たちの生活、…

『ガウディの遺言』にツッコみつつ、スペインに行きたい熱が燃えてきた

ガウディの遺言 作者:下村 敦史 PHP研究所 Amazon 『ガウディの遺言』下村敦史 1991年、バルセロナ。現地で暮らす佐々木志穂は、夜中に出掛けたきり帰ってこない聖堂石工の父を捜索している最中に、父の友人であるアンヘルの遺体がサグラダ・ファミリアの尖…

やさしさや良心は、まだちゃんと存在してる。津村記久子『水車小屋のネネ』感想

「家出ようと思うんだけど、一緒に来る?」身勝手な親から逃れ、姉妹で生きることに決めた理佐と律。ネネのいる水車小屋で番人として働き始める青年・聡。水車小屋に現れた中学生・研司...人々が織りなす希望と再生の物語。 水車小屋のネネ 作者:津村 記久子 …

平野啓一郎『ある男』感想

弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から「ある男」についての奇妙な相談を受ける。里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚し新しく生まれた女の子と4人で幸せな家…

清々しくて笑えて、絶対に主人公を好きになる。『成瀬は天下を取りにいく』感想

『成瀬は天下を取りにいく』。ネットや書評の話題作を読んだ。青春少女滋賀小説といえばいいのかな。もう、ただただ最高。成瀬あかり最高。読んで元気出た。

斜線堂有紀『回樹』感想。奇抜で粒ぞろいなSF集

どれも発想が特異で奇想、でもいつかどこかの時代と世界にはありえそうだと思わせる世界観が絶妙。どれも粒ぞろいで楽しめた。おもしろかったー!

読んだ本が私の血肉に変わる(文字通りの意味で)

家の本棚があふれてきたので手放せるものを選別。夫の領域には触れられないので自分の所蔵本を見直す。 二人あわせて1,000冊はありそうだがもう何年も開いていない雑誌や小説がほとんどで、どう考えてもこの先一生見ない本のほうが多いと思う。いずれ子ども…

小川哲『君のクイズ』の感想

君のクイズ 作者:小川 哲 朝日新聞出版 Amazon 『Q-1グランプリ』決勝戦。クイズプレーヤー三島玲央は、対戦相手・本庄の不可解な正答をいぶかしむ。彼はなぜ正答できたのか? 真相解明のため彼について調べ決勝を1問ずつ振り返る三島は──。一気読み必至!…

2023年2月の読書記録。ゲームの王国、光のとこにいてね、嘘の木など。

2023年2月の読書記録。数字は今年の読了冊数。先月につづき小川哲推し。 『ゲームの王国』小川哲(11) www.tabitoko.com 『星を掬う』町田そのこ(12) 読んだのは1か月前ですでに内容うろ覚え、あまり印象に残ってない…。読んだ直後に書いたメモには…

小川哲『ゲームの王国』感想

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA) 作者:小川 哲 早川書房 Amazon サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。貧村ロベーブレソンに生を享けた、天賦の智性を持つ神童のムイタック。皮肉な運命と偶然に導かれた…

石川県立図書館のこどもエリアがますます楽しい

昨年夏にオープンした石川県立図書館へ行く。3回目か、4回目くらい。いつ見ても、空間の広がりとか本棚が層になってる感じとか絵になる。素敵。 本の海に浮かぶような通路と、そこに置かれた椅子。何時間でも読書に没頭できそう。 さて、我々親子が石川県…

千早茜『しろがねの葉』感想

しろがねの葉 作者:千早茜 新潮社 Amazon 戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは…

2023年1月の読書記録。方舟、大地のゲーム、ユートロニカのこちら側など

1月に読んだ本の覚え書き。数字は2023年の読了冊数。この期間では私的に『地図と拳』が優勝! 『落日』湊かなえ (1) ミステリー要素に引っ張られながら読み進めたけど、二重三重になった構成が複雑というかごちゃごちゃしてて、のめり込めず。視点変…

小川哲『地図と拳』感想

地図と拳 (集英社文芸単行本) 作者:小川哲 集英社 Amazon 「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住し…

凪良ゆう『汝、星のごとく』感想

汝、星のごとく 作者:凪良ゆう 講談社 Amazon 愛は尊い、愛は地球を救うという世界の中で、わたしたちの愛はなにひとつ救ってはくれない。どちらかというとそれは呪いに近く、そういうしんどさを知っているわたしたちは、同じ根っこから咲いた別の花のような…

貪欲な食欲に飲み込まれる。柚木麻子『BUTTER』感想

BUTTER(新潮文庫) 作者:柚木麻子 新潮社 Amazon 木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しく…

孤独を救う一条の光。『かがみの孤城』感想

かがみの孤城 上 (ポプラ文庫) 作者:辻村深月 ポプラ社 Amazon 辻村深月『かがみの孤城』を読んだ。 学校でもそれ以外の環境でも、自分の居場所がないと感じているあらゆる人に、そこだけがすべてじゃないよ、逃げていいし、その先にあなたを待ってる人や場…

体制からの脱却とサイコサスペンスと冒険劇。『チャイルド44』感想

チャイルド44 上巻 (新潮文庫) 作者:トム・ロブ スミス 新潮社 Amazon この国家は連続殺人の存在を認めない。ゆえに犯人は自由に殺しつづける――。スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが…

情報量と想像力で真実を見抜けるか。『六人の嘘つきな大学生』感想

昨年からの話題作。夫が図書館で何十人待ちの予約を経て借りてきたのを横取りして読了。帯に「登場人物全員クズ」みたいなことが書いてあって、読者を煽る大げさでイヤな感じのコピーだなあと思ったんだけど、読み進めるうちに「こいつら全員本当にクズだな…

柚月裕子『盤上の向日葵』感想

盤上の向日葵 柚月裕子 盤上の向日葵(上) (中公文庫) 作者:柚月裕子 中央公論新社 Amazon 実業界の寵児で天才棋士――。 男は果たして殺人犯なのか! ?さいたま市天木山山中で発見された白骨死体。唯一残された手がかりは初代菊水月作の名駒のみ。それから4ヶ…

笑いながら落下できればそれでいい。一穂ミチ『パラソルでパラシュート』 感想

一穂ミチ『パラソルでパラシュート』 パラソルでパラシュート 作者:一穂ミチ 講談社 Amazon 大阪の一流企業の受付で契約社員として働く柳生美雨は、29歳になると同時に「退職まであと1年」のタイムリミットを迎えた。その記念すべき誕生日、雨の夜に出会った…

17歳の、友情や希望のきらめき。乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』

乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』 パパイヤ・ママイヤ 作者:乗代雄介 小学館 Amazon これは、わたしたちの一夏の物語。 ほかの誰にも味わうことのできない、わたしたちの秘密。 この冒頭の2行。これだけでもうまぶしい。夏が起こした奇跡のような出会いを予…

綿矢りさ『オーラの発表会』。著者の感情描写と言語センスが炸裂してる

綿矢りさ『オーラの発表会』 オーラの発表会 (集英社文芸単行本) 作者:綿矢りさ 集英社 Amazon 主人公、海松子(みるこ)のキャラが独特でぶっとんでる。海松子が、というか綿矢りさが面白すぎてびっくりした。人物描写のすくいあげ方と言葉選びのセンスが秀…

じわじわと恐ろしい、道尾秀介『いけない』

いけない (文春e-book) 作者:道尾 秀介 文藝春秋 Amazon 読者が参加する謎解きゲームのような趣向のミステリー小説。全4章。 以下、構成や内容に関する記述あり。 各章を読んだあと、章末にある図(写真)を見て、本文には書かれていない事実を知るという趣…

西加奈子『夜が明ける』感想

若年層の貧困、児童虐待、ブラック企業での地獄のような労働といった問題を織り込みながら、30代男性どうしの友情や絶望や救済を描いた長編小説。 夜が明ける 作者:西加奈子 新潮社 Amazon 児童虐待とか子どもの貧困って、当人には何の落ち度も原因もないの…

話題のSF小説『三体』が面白い。『三体』第二部はもっと面白い。

SF界隈で超話題の『三体』を読んでいる。三部作のうち一部と二部を読了。時間的距離的なスケール感がものすごく大きいのと、著者の知識と想像力の果てしなさに圧倒され続ける。面白いなんていう一言ではおさまらない、桁違いの興奮だった。 内容を超ざっくり…