旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


笑えて独創的で、ときに鋭い切れ味。綿矢りさ『意識のリボン』

それぞれの立場でままならない世界を生きる女性たちの8つの短編集。どれも小説のようなエッセイのような味わい。綿矢作品は、視点の特異さやそれを文章にするときのうまさ、ユーモアやコメディタッチの加減が好きなんだけど、その意味でこの作品集も最高だった。

身体感覚や感情の動きを綿矢りさにしかできない表現でとらえていて、そのリズムやテンボがじつに冴えわたってる。しびれる…!

たとえば、「こたつのUFO」のこの一節。声出して笑った。

外は本気で殺しにきてるなと感じさせる寒さで、マスクと眼鏡で防護したつもりの顔に、 とがった風が忍者のまきびしみたいに突き刺さる。図書館にいる間に雪が降ったのか、景色全体が白っぽくなっているが、最近よく降るので、めずらしくもなんともなく、はしゃげない。街の景色はさびしく、人も歩いてなければ車さえも時々しか通らない。街路樹は葉どころか枝さえ刈られて、精神鑑定のテストでこの木を描いた人間がいたら、即異常と判断されそうな無残さだ。しかし春になれば緑の芽をつけ、やがて葉をふさふさにさせる。

物語としては、姉妹を描いた『履歴の無い女』『履歴の無い妹』がよかった。同時代に同世代で読者でいられることが、本当に幸せだとしみじみうれしくなる作家。