時は文政5(1822)年。本屋の“私”は月に1回、城下の店から在へ行商に出て、20余りの村の寺や手習所、名主の家を回る。
江戸期のあらゆる変化は村に根ざしており、変化の担い手は名主を筆頭とした在の人びとである、と考える著者。その変化の担い手たちの生活、人生を、本を行商する本屋を語り部にすることで生き生きと伝える時代小説。
青山文平『本売る日々』
主人公は、江戸時代の地方の本屋。時代も環境も現代から遠いのに、そこで生きてる彼ら彼女らの生活が目に見えるよう。そういう気持ちを抱かせてくれる読書という経験って改めてすごいよなーと思う。
作中にずっと、本を読む人、本を好きな人への敬意や信頼の気持ちがあって、読んでるこっちも背すじが伸びる感じがした。本をとおして、自分の興味のおもむくままどこまでも知的好奇心を深くしていきたいなあ、とか。本によって知らない世界を広げていくことの楽しみはいつの時代も変わらない。
ややミステリーな仕掛けあり、幻想怪異譚ありの計3編。ストーリー的に集大成!な3編目がとてもいい。
静かでゆったりとした空気感のなか、本のことになると畳み掛けるように饒舌に語りだしちゃう本屋のテンションが好き。無駄がなくてテンポのいい文章も良い。