旅と日常のあいだ

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清々しく前向きになれるお仕事小説。永井紗耶子『大奥づとめ』

永井紗耶子さんの『大奥づとめ』を読んだ。

上様の寵愛こそすべて、とは考えなかった女性たちがいた。御手つきとは違い、昼間の仕事に励んだ「お清」の女中たち。努力と才覚で働く彼女たちにも、人知れず悩みはあって……。里に帰れぬ事情がある文書係の女、お洒落が苦手なのに衣装係になった女、大柄というだけで生き辛い女、負けるわけにはいかぬが口癖の女。涙も口惜しさも強さに変えて、潑剌と自分らしく生きた女たちを描く傑作。

大奥を舞台に働く女性たちを主人公にした短編集。お仕事小説といっていいと思う。将軍の寵愛を競うだけじゃない、こんな多様な職種と働き方があるのか!っていう発見がおもしろさのひとつ。そして、男の出世は家格で上限が決まるけど、女はそうとは限らなくて、やり方次第で上を目指せるし自分の適性や技能を活かせるというおもしろさもあった。

大奥という超特殊な環境下には当然いろんな取り決めや枠組みがあるのだけど、同時に自由さや大らかさもありそうというか、そこに身をおく女たちの知恵や人情やあらゆる思惑があって仕事や人間関係が動いていく様子が、ある意味では現代とまったく同じだなと思った。仕事をするというのは否応なく他者と関わることで、苦手な相手や嫌な場面もあるけれど、ときに自分の考え方やものの見方を変える出会いやできごとがあって世界がひらけていく、その繰り返し。一般社会で生きづらさを感じていた女たちが、大奥という職場でポジティブになっていくのが爽快だった。

短編ごとに主人公が変わるのだけど、前作の登場人物が別の話のなかで成長したり出世したりして登場する構成が好き。どんな人にも、そこに至るまでの過去や経緯や人知れぬ思いがあって、今のその人を作っているんだという立体感が感じられるところが。

キャラクターとしては、夕顔さんのブレなさとまっすぐさが大好き。かっこいい。