旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


2023年5月の読書記録。ケチる貴方、教誨、回樹、ある男など。

8月になったところで、今さらながら5月の読書の振り返り。前月分をすぐに振り返るというまっとうなスケジュールに、果たして年内のうちに戻せるのかどうか…。5月は7冊読んだ。かっこ内の数字は今年の読了冊数。

『ケチる貴方』石田夏穂(29)

身体性をテーマにした2編。極度の冷え性に悩む女性の話「ケチる貴方」と、太ももが太いことへのコンプレックスから脂肪吸引にのめり込み、次第に術後の痛み(を耐えること)への依存を深めていく女性の話「その周囲、五十八センチ」。冷え性をテーマに一本書ききるなんて、今までにそんな小説がありましたかね!? どちらの作品も、視点の特異さ、身体やその変化をとことん深く見つめる描写、比喩や文体にあらわれるユーモアのセンス、どれもがこの著者ならではのユニークさにあふれてる。石田夏穂さん、読めば読むほどじわじわクセになる。

体じゅうの脂肪吸引をしまくってもうこれ以上施術できる部位がない状態なのに、もはや吸引が目的なのではなくその先にあるダウンタイム(痛みや腫れが出る副作用期間)じたいが目的化してさらなる脂肪吸引をしようとするあたり、そのギリギリの心理状態に怖さとおもしろさがあった。痛みが大きいほど、それを乗り越えることが快楽や自己肯定になるという。程度はともかく、その思考はわかる気がするな。

『教誨』柚月裕子(30)

幼女二人を殺害した女性死刑囚・響子が最期に遺した言葉……「約束は守ったよ、褒めて」。この言葉の真意とは? その謎を探るため、響子の身柄引受人に指名された遠縁の香純は、事件を知る関係者と面会を重ねていく。

この謎にはものすごい惹かれるんだけど、謎解きにおける協力者の登場がご都合よすぎてなんだかなあ。柚月さんの佐方検事シリーズみたいな魅力的なキャラクターがいなくて、誰にも共感も納得もできず。死刑囚は誰に何を褒めてほしかったのか?というメインの謎に対する答えが、正直、驚きもなく腑に落ちる感じもなかった……。全体的に報告書を読んでるみたいなドライさだった。説明しすぎというか。

教誨

教誨

Amazon

『どこかでベートーヴェン』中山七里(31)

『もういちどベートーヴェン」』中山七里(32)

先月から引き続き岬洋介シリーズにハマってましたよ、と。

『回樹』斜線堂有紀(33)

SF短編集。おもしろかったので別記事で書いた。現実世界ではありえないことが書いてあるのに、まったくの非現実だとも思えない感覚があって、読者にそう思わせるSFの舞台設定や作者の力量すごいわ、と。

www.tabitoko.com

『ある男』平野啓一郎(34)

これも別記事で書いた。私が人と接するとき、その人の過去や境遇やおもてには現れない性質なんかを含め、いったいどこまでを「その人」だと括っているのだろうか。知らなかった面を知ったとき、その人への評価や好悪が変わることは自然で正しいことなのか? 永遠に答えが出ないテーマ。それにしても本作の平野さんの文章が好き。

www.tabitoko.com

『僕は小説が書けない』中村航・中田永一(35)

なぜか不幸を招き寄せてしまう体質と、家族とのぎくしゃくした関係に悩む高校1年生の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入ると、部の存続をかけて部誌に小説を書くことに。強烈なふたりのOBがたたかわす小説論、2泊3日の夏合宿、迫り来る学園祭。個性的な部のメンバーに囲まれて小説の書き方を学ぶ光太郎はやがて、自分だけの物語を探しはじめる―。

読んだ直後のメモに「ザ・ライトノベル。軽い…」とだけ残ってた。じっさい、それ以上のことが思い出せないどうしよう。