旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


2023年8月の読書記録。自由研究には向かない殺人、ヒエログリフ、朝星夜星など。

8月の読書記録をやっと書く。(あと20日もすれば師走だというのに!)

 

村上春樹『街とその不確かな壁』(50)

6年ぶりの長編小説。私は楽しかった。ラストでちゃんと物語が落ち着くところに落ち着いて、すっきりした気分で読み終えた。村上春樹の読後感にすっきりする日がくるなんて思わなかったわ!

 

西加奈子『くもをさがす』(51)

2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで乳がん発覚。治療を終えるまでの約8か月間を描いたノンフィクション。著者は基本的に明るくてポジティブで、そのことは悪いことではないんだけど、そのポジティブさが読んでてちょっと気疲れするというか、自分が同じ状況になったときこんなにうまくはいかないだろうなと思ってむしろへこむ。端的に言って、著者は経済的におそらくかなり恵まれているし、外国の地で親身になって助けてくれる友人がとても多い。そのことが引っかかってどうも私には響かなかったのが正直なところ。

くもをさがす

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鈴木忠平『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(52)

ファイターズが総工費600億円を投じてつくった新球場、エスコンフィールド。札幌にすでにドーム球場があるのに、その隣の小さな北広島市にできるわけないだろうというところから始まって、人間関係やら資金調達やら大小の交渉やら…。そしてついに夢を現実のものにした人たちの胸アツ人間ドラマ。まじでロマンにあふれてる。さまざまな立場でうごめく思惑や駆け引きにドキドキしながら読んだ。夏にエスコンフィールドに行ったけど、地域にひらかれている感じがしたし、野球観戦だけじゃない楽しみや仕掛けがあって魅力的だった。また行きたい。

 

恒川光太郎『真夜中のたずねびと』(53) 

恒川さんは幻想とホラーがまざった作風が好きなのだけど、この連作集は幻想要素が少なめだった。普通に怖いサスペンス。初期作品のほうが幻想部分のユニークさと巧さが際立っていたように思う。『夜市』とか『雷の季節の終わりに』みたいなのがまた読みたい。

 

エドワード・ドルニック著『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』(54)

有名なロゼッタストーンに書かれた古代文字、その解読をめぐるトマスとシャンポリオンの一進一退ノンフィクション。絵文字みたいなあれを一体どういう手がかりから解き明かすことができたのかという点も興味深いし、ふたりの行きつ戻りつのレースもおもしろい。好奇心を大いに刺激された。

 

山本文緒『自転しながら公転する』(55)

主人公は30代女性。結婚や仕事をめぐる焦りやモヤモヤが超リアル。わかりすぎるし、心当たりがありすぎて…! おかれている状況とか環境とか、自分のこととして読めるからこその苦しさとおもしろさがあった。完璧な幸せとか絶対的な正解を求めて自分を縛り付けたり苦しめたりしてしまうことから、我々は解放されるべき。ほんとに。

 

朝井まかて『朝星夜星』(56)

すごくおもしろかった。主人公は、長崎で日本初の洋食店を開いたあと、大阪に進出してレストランとホテルを開業、京都や神戸にも支店を拡大。貧しかった少年が自分の腕で富と名声を獲得していく立志伝としてわくわくする。その話が、妻ゆきの視点から語られているのがとてもいい。国の未来や大事業の進展といったスケールの大きな話が動いていくのと同時進行で、ゆきが感じている、夫婦として、親としての共感や緊張が手にとるように伝わってくる。その文体や構成がうまくハマってる。

 

ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(57)

ものすごく好きだった。本作を第一部として第三部まであるのだけど、この夏はずっとこれに夢中になっていた、と言っていいくらい。舞台はイギリスの田舎町。高校生の少女が自分の住む街で起きた失踪事件について調べるうちに、身近な人物が次々と容疑者として浮かんでくる。真実を明かすため、ひたすら地道な調査を続けるうちについに真犯人が…!!というもの。本格推理というより、学生生活のあれこれや爽やかさも含めて「高校生探偵小説」と呼びたいテイスト。主人公がとにかく活動的で健気で応援したくなるキャラクターなんだよな。相棒役である少年がまた、すごくいい。英米でベストセラーとのことだけど、私もはまりました。(しかし文庫で1500円って恐ろしい)

 

津村記久子『つまらない住宅地のすべての家』(58)

とある町の、路地を挟んで十軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこに、女性受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入り、住民は交代で見張りをすることに。それまでつながりのなかった住民たちが少しずつ関わりながら結末へ。どの家にもどの人にも外からは見えない悩みや困りごとがあって、隣人に対して思うことがあって、でも多くの人はそれを表面に出さずに生きてるんだよなーという当たり前のことを思った。もちろん、お互いにそうとは知らず、実はいい関係を築いているという例も。悩みの種類や程度って人の家と比べるものじゃないし、どっちが幸せとかどうとかいうものじゃないね。

 

辻村深月『傲慢と善良』(59)

忽然と目の前から消えた婚約者を探すため、彼女の過去と向き合う主人公。心のどこか、ふだん意識してない部分をときおりズブッとえぐってくるような、そんな小説だった。ちょっと説教臭いところもあったけど。あと、場面転換の衝撃が大きすぎて天地がひっくり返ったかと思ったわ。

8月は9冊読んだ。なかなかのハイスピード。ちなみに今月は読書時間を全然とれてなくて、12日時点でまだ一冊も読み切ってない。最少記録を更新しそう。