旅と日常のあいだ

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2023年11月に読んだ本。下町ロケットと半沢直樹にハマり続けていた。

12月31日、大晦日。多くのブログで「2023年に読んだ本」とか「2023年におもしろかったベスト10冊」とかの振り返り記事がアップされてるのを眺めつつ、一歩遅れて「11月に読んだ本」を大急ぎで書いている。紅白が始まるまであと1時間ちょっと。目の前に2024年が迫ってるよー、焦る焦る。書き終わったら年越しそばの準備もしたいので、ささっといくぞ。

池井戸潤『下町ロケット』(75)

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。

11月初めのこの頃、痛快なエンタメ作品でスカッとしたい!という気分があって、そういえばこれまでに池井戸潤を一作も読んでいないなと気づいたのが同じタイミングだったこともあり、まずは直木賞受賞作の『下町ロケット』を手に取ってみた。ものすごくおもしろい。スピード感があって楽しい。30ページおきくらいにピンチが発生し、技術力や知恵や交渉で戦う、その緊張感、期待感、やってやったぜ!というカタルシスの連続。読んでてとにかく気持ちよくて、エンタメ小説バンザイ!!と思った。

キャラクターの造形や成長が良くて、はじめはとんがってたり受け入れられなかった人物が、仕事を通じて仲間になっていくのがアツいわ。こうやって書くと少年ジャンプ的だな。それがいい。ぐんぐん読めて、ぐいぐい引き込まれる。

 

池井戸潤『下町ロケット2 ガウディ計画』(76)

 

池井戸潤『下町ロケット3 ゴースト』(77)

3作目は特許申請をめぐる競争とか訴訟の論争シーンが多い。技術力や開発力あってこそなのは当然だけど、ビジネスとして大企業とやりあうとき、いちばん肝なのは顧問弁護士の腕なのでは、と思った。知財に強い弁護士かっこいい。

 

池井戸潤『下町ロケット4 ヤタガラス』(78)

というわけで下町ロケットシリーズ4冊を1週間で読み切った。4作目は技術中心の話。天才エンジニア島津さんが素敵。

シリーズ全部、飽きることなくずっとおもしろかった。佃社長の判断に、甘すぎるよ~、人がよすぎるよ~とヤキモキする面もあったけど、そういう判断をして実行していく人だからこそ周りのメンバーに恵まれて会社が続いてくんだろな。ビジネス上の競争相手とか過去に遺恨のあった相手であっても、そこへの敵対心ではなく、サービスを待ってるユーザーのことを一番に考えて動く人。保身や出世や利権にがんじがらめになってる人間にはできない、発想と行動。

物語上の悪役や競争相手にも実はいいところがちゃんとあるという見せ方が多くて、現実にはそんなうまくいくもんかいな?と思うも、そうであってほしいなぁとも思った。

 

池井戸潤『オレたちバブル入行組』(79)

池井戸潤の代名詞といえば、の本作品。半沢直樹の第一巻。やっと読みました。ドラマも全然見てなかったのだけど、もちろんあの名台詞は知っていた。今やっと原作を読み終え、流行から数年遅れて「倍返しだ!」と言えるようになった。ドラマは見てなかったけど、脳内ではすべてが堺雅人の顔で再生されていた。小説、おもしろかった。これはハマるね。

 

荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』(80)

孤島の連続殺人モノ。仕掛けが大がかりで、やればやれるのかもしれないけど現実的には起こり得ないだろうよ、という思いがぬぐえない。誰が何のために、の部分がわりと最後までわからなくて、真相が知りたい一心で読んだ。からの、舞台が一転しての展開! 殺人の数やむごさが動機と見合わないように思った。

ミステリーは、キャラクターの魅力や事件以外の部分のストーリーにのめり込めないと、疲労ばかりが残る。おもしろい作品に出会いたくていろいろ試すものの、そのたびに、私には向いてないようだ…と思ってしまう。

 

高瀬隼子『うるさいこの音の全部』(81)

最高におもしろい。思考をこじらせて脳内暴走しまくる主人公。それを第三者目線で妙に客観的に分析しつつ、でもとめられないでいる冷静さ、ヤバさ、おかしみ。

 

池井戸潤『オレたち花のバブル組』(82)

半沢直樹シリーズ2作目。章や場面の変わり目に、密室やバーや居酒屋で会食または飲み会をしてるシーンが頻発するのがめちゃくちゃ気になるー。飲食しないと場面転換できないのか?と何回ツッコんだか。話はひき続き山あり谷ありのジェットコースターで、追い詰められてもへこたれない半沢直樹、ここぞというところでビシッと論破する半沢直樹、やってやれ!という場面では容赦しない半沢直樹。あー、気持ちいい。なんやかんや問題があっても最後には勝つはずだと思いながら読める安心感、もはや水戸黄門。

 

ソン・ウォンピョン『他人の家』(83)

彼氏に振られ、職場をクビになり、賃料の値上げによって、今住んでいる部屋からの退去を余儀なくされた、踏んだり蹴ったりのシヨン。部屋探しのアプリで、格安の超優良物件に出会った彼女は即、入居を決める。格安なのには、理由があった。本来二人で暮らすはずの部屋を、四人で違法にルームシェアしていたからだ。
優雅な独り暮らしには程遠いものの、そこそこ不自由のない生活を送っていたシヨンだが、ある日、オーナーが急遽、部屋を訪れる。慌てた四人は共同生活の痕跡を消すべく、その場しのぎの模様替えをし、借主の親族のふりをするが……。

家や家族を題材にした8作の短編集。上の引用は、表題作「他人の家」の紹介文。私が好きだったのはこれと、ある本屋での時間を描いた「開いていない本屋」。淡々とした文体で妙な違和感やちょっとした恐ろしさが漂う空気感を書いているなかに、人の気持ちが通うことのぬくもりとか、小さいけれど確かな光があるという希望を感じられるような作品集だった。好きなテイストだったので、その後、他の作品も読んでるところ。