青山七恵さんの小説、『前の家族』を読んだ。
37歳、独身、小説家・猪瀬藍は、中古マンションの購入を決意。夫婦と娘2人の4人家族が暮らす物件を内見し、理想的なマンションに出会えたと契約を結ぶ。しかし、マンション購入はその物件だけではなく周りの環境まるごとが自分の世界になるということ。その先に思いもかけない展開が待ち受けていた……。
不気味でおもしろかった。これまでに読んだ青山作品にはない舞台設定と後味。惹句に「異色のマイホームミステリー」とあるけどまさに。謎解きが主眼ではなく、そこに至るまでの奇妙さや不穏や考え方の変化をのぞき見るおもしろさ。
中盤、なんか変だなという出来事が増え、徐々に大きくなってくる違和感にぞわぞわする。結末に向けて、その原因を「もしやこれは……」と推測するものの「いやいやいや、さすがにそれはないって!」と思ってたら、まさかのそれだった。とんでもないホラー。
途中、主人公の判断や振る舞いの軽率さや無防備さにイライラ。そこはもっと強く出なきゃだめだろ!とか、ビシッと拒否すべき!とか歯がゆくなる。でもそれは、当たり前の判断ができなくなるほど「前の家族」にとらわれており、ある種の洗脳のように思考をコントロールされていることのあらわれ。無償の好意や優しさを浴びるうちに、「なんかおかしい」と感じていたことがそうではなくなり、むしろ心地よくなっていく展開が怖い。目を覚ませ!と言いたくなるのだけど、本人が幸せならそれでいいのかな、いやこの状況は客観的にヤバいよな、でも本人はそう思ってなさそうだし……。私の善悪メーターもびゅんびゅん振れて、気持ちが悪くなってくる。
人から向けられる純粋な好意や善意を信じられなくなるような、足元がガラガラ崩れていって自分の拠り所が見えなくなるような話だった。ハラハラするのと先を知りたいのとで一気読み。ラストのその先が気になる!