旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。



読書

奇妙で不穏、でも愛おしい気持ちになる。小川洋子『原稿零枚日記』

小川洋子さんの『原稿零枚日記』を読む。エッセイや日記ではなく、日記調で書かれた小説。書き手は女性作家で、特技は他人の作品のあらすじをまとめること。その技術は天才的なのに自身の原稿はいっこうに進む気配がなく、日記の文末に書き記している原稿の…

島本理生『あなたの愛人の名前は』感想

島本理生さんの小説『あなたの愛人の名前は』を読む。6つの短編がおさめられており、ある恋愛を男女それぞれの視点から描いたものとか、同じ人物が別の話にも登場したりとか、人間関係やエピソードが少しずつ重なり合っている構成がよかった。 「足跡」「あ…

歌の向こう側にある景色や気分を読む。東直子・穂村弘『しびれる短歌』

新聞の書評欄を見てひかれた、『しびれる短歌』を読んだ。歌人の東直子さんと穂村弘さんによる対談集。私はお二方の短歌がかなり好き。穂村さんは散文も大好き。 しびれる短歌 (ちくまプリマー新書) 作者: 東直子,穂村弘 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: …

阿川佐和子『ことことこーこ』感想。親の介護と自分の生活と。

阿川佐和子さん『ことことこーこ』を読んだ。 認知症が進む実母・琴子(ことこ)と、その娘である私・香子(こうこ)の物語。症状が進んで物忘れがどんどんひどくなっていく母親に加え、関係がしっくりきてない弟とその妻、仕事での失敗といったエピソードが…

パン切り包丁のデビューと、ペリカンの食パンと、雑誌「CREA」のパン特集

結婚式の引出物にカタログギフトをいただいて、「持っていないけれどそういえばほしかったもの」「友人との関係が何かしらあるもの」がいいなーと考えていたところ、うってつけのものを見つけた。 パン切り包丁! そういえば持ってない。家でパンを切るたび…

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』感想。展開の爽快感と、読後のモヤモヤと。

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』を読んだ。あらすじも設定も知らぬまま、なんとも不思議な表紙だなあと思いながら。 久々に読む伊坂作品、終盤の仕掛けにぞわぞわと興奮した。語り手のセリフに何度も出てくる「僕が話していることには嘘がまざっている」という…

2019年10月発行予定、『十二国記』の新作が待ち遠しい

読まない本はバンバン捨てまくる!という意気込みのもとに実家の本棚を整理中、小野不由美さんの『十二国記』シリーズが出てきて片付けの手が止まる。大好きな作品だから、これは絶対に手放せない。 十二国記を初めて知ったのは高校生のとき。茶道部の友人が…

暗くて不安で、だからこそ明るさを信じたくなる。上田岳弘『ニムロッド』感想

第160回芥川賞受賞、上田岳弘さんの『ニムロッド』を読む。 よく「ビットコイン小説」「仮想通貨小説」という紹介をされているが、仮想通貨について何も知らない私のような読者でも大丈夫、作中で語られる仮想通貨の仕組みについて「ふむふむそういうことな…

悪魔のおにぎりはここで生まれた。南極調理隊員による著書『南極ではたらく』

渡貫淳子さん著、『南極ではたらく かあちゃん、調理隊員になる』を読了。著者は、去年話題になった「悪魔のおにぎり」を生んだ人。 調理隊員の仕事は、昭和基地における南極越冬隊の一員としてメンバーの食事を担うこと。持ち込む食材は隊員30名分×1年4か月…

未知なる胎児を見てみたら。最相葉月『胎児のはなし』を読む

産婦人科医の増崎英明先生とノンフィクションライターの最相葉月さんによる対談集。一冊まるごと「胎児」についてさまざまな角度から話題にしていて、そういえば自分は胎児のことをほとんど知らないな、というか知ろうとしたことがなかったなと気づいた。 現…

ひとりで北極を歩くための準備とは。角幡唯介『極夜行前』を読む

角幡唯介さんの『極夜行前』を読了。 太陽が昇らない極夜の北極を4ヶ月間かけて歩いたノンフィクション『極夜行』の、計画の経緯や準備の様子を描いた探検記。北極というほとんど未知の場所、しかも暗闇の中を4ヶ月間も歩き続けるというのだから未知も未知…

春の雪の日に、角幡唯介『極夜行前』を読んでいる

寒い朝。起きて外を見たらなんと雪が積もっていた。屋根や車の窓にうっすらと。嘘でしょう、もう4月だぞ。ここ石川県の金沢市では昨日4月1日に桜が開花。桜のたよりと同時に雪かぁ。4月の積雪は7年ぶりのことだそうで、全然ないってわけではないのだな、そ…

まだ見ぬおやつ、アップルシュトゥルーデルへの憧れ

世界各地の旅先で出会ったお菓子を紹介した本、「旅とデザート、ときどきおやつ」を読んで、美味しそうだなあと思ったのが「アップルシュトゥルーデル」というお菓子。名前からはどんなお菓子なのか想像もつかないのだけど、説明によると「りんご・レーズン…

共感はしないけど今っぽさはわかる。古市憲寿『平成くん、さようなら』感想

第160回芥川賞候補作になった古市憲寿の「平成くん、さようなら」を読んだ。以下、ネタバレありなので、ご承知おきのうえ読み進めてください。 率直な感想は、「いけすかない主人公だなー、勝手にしたら?」からの「えっ、実は難病もの?」、そして「ラスト…

南極探検の裏表を知るおすすめの2冊。全員生還のシャクルトン隊と、彼に消された男たち

一年前(2018年2月)に南極旅行に行ったことがきっかけで、それからずっと、南極や北極に関するノンフィクションを好んで読んでいる。 最近読んだのは、1900年代初期(今からおよそ100年前)に南極大陸横断を試みた探検隊にまつわる2冊。どちらか1冊だけを読…

どうしてこんなに洋菓子が好きなのか(しかも和菓子も好き)

最近よく眺めている、雑誌ブルータス2018年11月1日号「洋菓子好き」。年が明けてからほしくなり、バックナンバーを探し出して購入した。 紹介されている洋菓子および洋菓子店は東京のものがほとんどなのですぐには買いに行けないんだけど、誌面を見ながら美…

1冊まるごとあんこの本と、野々市【土九】のたい焼き

このブログにもよく書いているとおり生クリームと乳脂肪が大好きな私だが、それと同じくらいあんこも大好きだ。ようかんもきんつばもいいけれど、「あんこ+何か」の組み合わせが好きなので、大福、ぜんざい、おはぎあたりは大好物。 もちろん、たい焼きも。…

2018年、観てよかった映画3作&読んでよかった本5冊

2018年も残りあと3日となった。年がかわることに対して感慨も実感も特になし。年賀状は早めに出し終え、おせち料理は出来合いのものを数品購入済み、トイレもお風呂も台所も普段から掃除しているから大掃除は省略、って感じのゆるゆるな年末だ。 今年の手帳…

2018年の私的第一位、森見登美彦『熱帯』感想

森見さんの新刊(2018年11月)、『熱帯』を読み終えた。 最後まで読み終えた人が誰もいないという幻の本『熱帯』の謎をめぐる壮大な物語。冒頭には作者である森見さん本人が登場して『熱帯』の謎に迫ろうとするのだが、同じく『熱帯』にとりつかれた人物たち…

丁寧な暮らしには遠いけれども、「アンドプレミアム」まとめ買い

好きな雑誌のひとつ、「アンドプレミアム」。書店で見かけて興味のあるテーマだったら買う、くらいのゆるさで集めていたのだけれど、中古のバックナンバー20冊くらいがお値打ち価格でまとめ売りされていたので一気に購入した。歯抜けだし、すでに持っている…

最近気になる本、月刊「たくさんのふしぎ」

月刊「たくさんのふしぎ」(福音館書店)のバックナンバーを衝動買い。一冊まるごとタータンチェックの特集にめちゃくちゃ心惹かれた。「好きな模様はなんですか」って聞かれたら即答でタータンチェック!な私だ。 すてきなタータンチェック (月刊たくさんの…

『思い出のマーニー』に、読書の記憶や憧れの気持ちを思い出す

『思い出のマーニー』(ジョーン・G・ロビンソン)を読み終えての感想。ジブリの映画は観ておらず、設定もストーリーも知らないまま。冒頭で登場する少女がアンナという名前だったので「あれっ、主人公はマーニーではないの?」と思ったが、このアンナがやが…

北極の夜を越え、4か月ぶりに見る太陽とは。『極夜行』角幡唯介

『極夜行』角幡唯介 数年前から妙にはまっている、探検家で作家の角幡さん。『極夜行』は2018年2月発行で、昨日11月8日にノンフィクション版本屋大賞の第1回受賞作に選ばれた。やったねえ角幡さん! この本について著者本人が「評判はいいし各所で取り上げら…

冲方丁『天地明察』感想。江戸時代の改暦プロジェクトに胸が熱くなる

冲方丁『天地明察』 江戸時代に、それまで800年にわたって使われてきた中国由来の暦を改め日本独自の暦を作ろうとした学者・渋川春海(=安井算哲)の物語。春海は職業としての碁打ちであり、かつ数学、天文学、暦学に通じた人物。まだまだ精密な望遠鏡とか…

恩田陸『蜜蜂と遠雷』感想。ピアノコンクールの舞台に立つ演奏者の姿が立体的に見えてくる

恩田陸『蜜蜂と遠雷』 2017年本屋大賞&直木賞受賞作。国際的なピアノコンクールに挑む、主に4名の演奏者にスポットをあてた小説。ああ、いい読書体験をしたなあと心底うれしくなる作品だった。 コンクールの舞台上で奏でられるピアノ、その曲名やメロディー…

三浦しをん『ののはな通信』感想

三浦しをん『ののはな通信』角川書店 女ふたりの書簡小説。地の文は一切なし、1冊すべてが手紙のやりとりで交わされる。 「のの」と「はな」のふたりが、同じ女子校に通う高校時代から40代になるまでの二十数年間に交わした手紙の数々。その中には、返事が来…

北極で全滅した探検隊を追う、極上のノンフィクション。角幡唯介『アグルーカの行方』

「アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」角幡唯介 フランクリン隊は、19世紀の北極圏で当時まだ発見されていなかった北西航路を開こうとした探検隊。その目的を果たすことなく隊員129人が全滅するという衝撃の結末を迎えたのだが、現…

〆切に追われる作家を見るという楽しさ。『〆切本』

〆切というのは嫌なものだ。仕事の〆切のない世界に行きたいと何度願ったことか。私にとって〆切は、時間や作業量をきちんと区切って健全に過ごすための指標、という前向きなものになることはあまりない。どこまでも追ってきて、追いつめて苦しめて息も絶え…

小鳥の声に耳を傾けたくなる小説。小川洋子『ことり』感想

『ことり』 朝日文庫 小川洋子 シャーリー・ジャクスンの小説『ずっとお城で暮らしてる』(感想はこちら)に続く、世間から微妙にはみ出している兄弟の物語(あちらは姉妹だったが、こちらは兄と弟)。 兄は鳥の言葉を理解することができる。というか鳥の言…

川上未映子『きみは赤ちゃん』

『きみは赤ちゃん』 川上未映子/文藝春秋 川上さんの妊娠から出産、子どもが一歳になるまでを書いたエッセイ。 これまでのエッセイを読む限り、川上さんは妊娠に対して積極的なわけではないという姿勢、態度だったと思う。「女性であるからには一度は産んで…