エドワード・ドルニック著『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』を読んだ。
千年以上、誰も読むことができなかった古代エジプトの謎の文字"ヒエログリフ"。解読のきっかけは、ナポレオンのエジプト遠征でヒエログリフが刻まれた黒い石板“ロゼッタストーン”が発見されたこと。そして、イギリスとフランスの二人の天才学者が解読レースに名乗りをあげたことだった。性格も思考方法も正反対のライバルは、どのように挑んだのか? 未知の言語を解読するプロセスをスリリングかつリーダビリティあふれる筆致で描く、傑作ノンフィクション。
はじめのほう、寄り道が多くて解読の本編がなかなか始まらず、いきなり読むのを挫折しそうになった……が、サブタイトルにある「ふたりの天才」ヤングとシャンポリオン登場からは俄然おもしろい。
ヒエログリフははじめ、その絵画的で装飾的な見た目から、音ではなく意味のみを表す表意文字だと考えられていた。が、トマスのある発見により、一文字ごとに決まった音が当てられていることがわかる。それを足がかりに、実例を集めまくって解読に成功したのがシャンポリオン。そもそも右から読むのか左から読むのかすらわからないところから、どうやって音と意味の特定を成し遂げたのか? 歴史の授業で「シャンポリオンがロゼッタ・ストーンを解読」ってさらりと習ったが、そこに至るまでの途方もない時間と好奇心と執念よ。
ロゼッタ・ストーンの例だけでは確証に乏しい部分もあったようだけれど、後年、カノーポス・ストーンと呼ばれる別のヒエログリフ石板の発見と翻訳により、シャンポリオン説が完璧に合致、証明される展開がドラマチックだった。
トマスとシャンポリオンの抜きつ抜かれつの競争物語というよりは、史料の発見、発掘や運搬も含めて多方面からアプローチする書かれ方。(それゆえに、脇道にそれまくって冗長に感じる部分も)
古代エジプトの歴史や政治にも触れていて、印象的だったのがハトシェプスト女王のスフィンクスのエピソード。後継のトトメス3世が、女王の痕跡を消そうとして関連する像やスフィンクスを徹底的に破壊するのだが、3000年後(!)の1920年代、エジプトの遺跡で石像のかけらがたくさん埋まったくぼみが見つかり、そこからばらばらになったスフィンクスが出現。メトロポリタン美術館に運ばれ、何百ものかけらを組み合わせて修復されたものが、いま展示されている。それがハトシェプスト女王だとわかったのもヒエログリフのおかげ。ちなみに、くぼみでスフィンクスを見つけた考古学者はその後メトロポリタン美術館の館長となった。これまた劇的。
ヒエログリフの神秘性に惹かれるところから始まって、存在を消されたハトシェプスト女王やその遺跡に興味がわいてきたので図書館で関連本をいろいろ借りた。まるで夏休みの自由研究だ。