旅と日常のあいだ

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小説はすばらしいけれど人間性はむちゃくちゃ。浅井まかて『ボタニカ』

朝井まかて『ボタニカ』を読んだ。

日本植物学の父と称される牧野富太郎の生涯を書いた小説。ひたすら植物を愛し、その採集と研究、分類にのめりこみ、莫大な借金を抱え、学会や権威との軋轢を繰り返しながらも、まあなんとかなるだろうの精神を貫く富太郎。

いやもう、読みながら何十回もイライラモヤモヤしてしまった。研究に入れ込んで家族を顧みず、常に借金まみれな生活。もういい加減にしなよ富太郎!と声をあげたくなるんだけど、本人はまったく気にしていないのがさすが常人ではないというか。一般的な経済観念や価値観からこうも離れた心持ちで生きてられるの、ある意味強すぎる。

大変なのは家計をきりもりする妻・スエ。子だくさんなのに衣食生を削られて金策に奔走。富太郎め、スエの苦労も知らないで…!とスエに代わって憤慨するも、ス工の死後、前妻ナホは「スエさんは苦労や不幸だとは思っていなかったでしょう」と語る。いや待って、それでいいの? 私はまったく共感できぬ! 夫の好き勝手のために妻が犠牲を強いられている図に見えて、ちょっと、いやかなりしんどかった。

富太郎の異色の経歴とか破天荒さは確かにおもしろかったし、ジェットコースターな人生を一緒に経験するわくわく感を楽しんだのは事実。牧野富太郎が与えた影響とか残した功績、図版や資料にも興味がわいた。

が、それはそれ。植物学に対する情熱や集中力が並はずれてるのはよくわかったけれど、とにかく人間性が破綻してるせいで、研究者としての偉大な面をポジティブに評価する気になれない~。なんやかんや周囲に協力者が絶えないのは、富太郎が人をひきつけるものを持っているからなんだろうけれども、しかしスエもスエだよ、もっと富太郎のことをたたいて目を覚まさせて! でも、スエがいたから富太郎がいて、富太郎のことをきっとすごく好きで信じてているからこそのスエの態度なんだよな。富太郎も最後は「学問に私情をはさまない」という自分の掟を破り、自身が発見した新種の植物にスエの名を付けている。夫婦のありようは型にはまらないね。

おもしろくてぐいぐい読んだし、植物学者・牧野富太郎のことを興味をもって知ることになったし、読んで後悔はまったくしていないんだけど、心の底に煮えきらぬものが残ったまま。