旅と日常のあいだ

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恋と友情と裏切りと信頼と。濃厚ファンタジー小説『フォース・ウィング』の感想

竜の騎手たちが魔法の力で国防を担う国ナヴァール。二十歳のヴァイオレットは、軍の司令官である母親の命令でバスギアス軍事大学に入学して騎手を目指すことに、そこで出会った第四騎竜団(フォース・ウィング)の団長ゼイデンに、ヴァイオレットは強く惹かれていく。何重にも絡みあった因縁の宿敵である彼に……。


『フォース・ウィング~第四騎竜団の戦姫~』読了。本屋大賞翻訳部門の第1位ということで手にとってみた。竜と魔法と学校と戦闘が出てくる世界。分厚い海外ファンタジーを定期的に読みたくなる性分。

帯に「ロマンタジー、日本上陸!」とあって、すなわちロマンス(恋愛要素)多めのファンタジー小説という位置づけらしい。けったいな造語が出てきたな、そこまでロマンスを強調するとは一体どれほどかと思いきや、これがもう相当に濃くて官能的かつ肉感的で椅子から転がり落ちそうになった。お子さまにはとても読ませられないレベル。私は職場の昼休みに読んでいたのだが、誰かが横からページをのぞいてないか心配だったし、自分がどんなニヤついた顔になっていたかと思うと恐ろしい。「ロマンタジーってなんやねん」だったのが、心焦がされ身悶えする展開にまんまとのめり込み、読み終わるころには「ロマンタジーばんざい! もっとちょうだい…!」ってなってたわ。

登場人物たちが、身も心も強く惹かれあい求めあうのには物語上の必然があって、彼らの生きている世界(竜に乗って戦地に行く、またはそのために命がけの訓練を
する)では、死が常に隣り合わせなのである。家族や先輩や同級生がどんどん死んでいく日常で、自分の命も今日が最後かもしれない。来るかわからない明日を待つのではなく、今このときの気持ちを燃やしたいという前提があるからこその情動。

そんな張り詰めた環境のなかで、超強くてイケメンだけど超ぶっきらぼうな俺様系先輩と、やさしくて頼れるお兄ちゃん系幼なじみにはさまれるヒロイン・ヴァイオレット。なんというドリームワールド! 怖くて憎くて嫌いなはずの相手のことを、気が付けば目で追って見つめてどうしようもなく求めてしまうヴァイオレット…。20歳なので、そりゃまあ大人の関係もありだよな。

序盤は物語の背景がわかりにくいこともあり、なんか読みにくくてあまり好きじゃないかも…と途中棄権しそうになったけど、中盤から俄然おもしろくなった。竜がみずから乗り手を選ぶシーンは予想を上回る展開でテンション上がったなー。戦闘においては、学校では教えられない謎や秘密がほのめかされて、まだまだ何かが起こる予感と期待。その予感と興奮が最高潮になるのが下巻のラストで、えっちょっと待ってどういうこと!?の気持ちで、第2巻に続くのだった(全5巻であることが発表されており、現在第2巻まで刊行)。

竜と魔法のファンタジー世界で繰り広げられる、ダークでシビアで痛みも緊張感もある濃厚な恋と死の物語。続編が非常に楽しみ。