宮島未奈さんの『成瀬は信じた道をいく』を読んだ。あまりにもおもしろくて一気に魅了された前作『成瀬は天下を取りにいく』の続編。シリーズもので最大限に期待がふくらむなか、こんなにも裏切らない、むしろ上をいく作品が現れるとは。
読みながら、変わらぬ成瀬にまた会えた婚しさを何度もかみしめる。言動や文章がおもしろくて、3ページに1回は声を出して笑った。始めたばかりのインスタグラムで独特の言い回しを繰り出し、「おじさん構文ならぬ成瀬構文」と言わしめる。バイト先の常連クレーマーを味方につけて万引き犯を特定する。福井方面から開通したばかりの北陸新幹線で金沢駅に降り立ち、構内で得意のけん玉を披露する。
最後に成瀬はけん先に玉を刺し、右手を高く掲げてポーズを取った。その姿はまるで自由の女神のようだった。
その様子が目に浮かんでニヤニヤしてしまう。ああ、成瀬が金沢に来るなんて、なんという胸アツ展開。石川県民としてじっとしていられない。私も会いたい。成瀬を見に行きたい!
成瀬の個性の強さは別格だけど、周りの友人知人が存在感でぜんぜん負けてない。といっても、ものすごい個性の強い面々が集まってくるとか、逆に成瀬の個性を引き立てる役割になっているというわけではない。一言でいうと、成瀬の周辺はとても楽しそう。成瀬のペースに巻き込まれたり引き寄せられたりしながらも、振り回されてるというような悪影響には見えなくて、ひとりひとりがそれぞれの思いや考えをもって行動して、その結果がいまこの状況になっているんだというような。なんと言えばいいのか、この小説の全体が肯定感に満ちていて(しかもまったく押し付けがましくない)、誰もが自分の信念でやりたいことをやっていいんだと思わせる力がある。それをもっとも具現化しているのが成瀬。そのスタイルのブレなさは見事なほど清々しくて、だから読んでいて、楽しく明るく頼もしい気持ちになれるんだろうな。
物理的に距離の離れた親友・島崎との関係性の話では、思わず顔がほころんだ。気持ちがじんわりあたたかくなって、もう、成瀬最高!全員最高! 一作目以上に、成瀬ワールドのみんなが好きになった。新キャラとしては、特に成瀬父と篠原かれんが好き。
4月発表の本屋大賞2024、成瀬にとってほしいなー。