『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』 ファン・ボルム (著)、 牧野 美加 (翻訳)
会社を辞めたヨンジュは、ソウル市内の住宅街に『ヒュナム洞書店』をオープンする。書店にやってくるのは、就活に失敗したアルバイトのバリスタ・ミンジュン、夫の愚痴をこぼすコーヒー業者のジミ、無気力な高校生ミンチョルとその母ミンチョルオンマ、ネットでブログが炎上した作家のスンウ……。それぞれに悩みを抱えたふつうの人々が、今日もヒュナム洞書店で出会う。.
本屋大賞翻訳小説部門の第一位ということで手にとった。ゆるやかでありながら意志に満ちた空気感がとても好きだった。町はずれにあるこぢんまりとした書店、誰もが自由に過ごせるスペース、おいしいコーヒー、適度な距離を保ちながらもお互いをリスペクトしあっている人物たち。まさに、理想の本屋さんを具現化したような空間。あまりにも理想的すぎてもはやファンタジーの域だけど、そこに集まる人々の迷いや悩みはどれも非常にリアルで、共感できる点がたくさんあったな。
記憶にとどめておきたいフレーズが、押し付けがましくなく数多くちりばめられていた。自分の生き方や仕事やこれまでの選択について思い返してみたり、これからのことを考えるささやかな後押しをもらったような。
何か考えるところがあるなら、とりあえずその考えを抱いて生きてみたらいい。そのうち、それが正しいかどうかわかるようになる。正しいのか間違ってるのか、先に決めてしまわないで。
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ある空間を心地よいと感じるかどうかの基準はこうだ。身体がその空間を肯定しているか。その空間では自分自身として存在しているか。その空間では自分が自分を疎外していないか。その空間では自分が自分を大切にし、愛しているか。
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誰かのために働いているときでも、自分のために働かなければならない。自分のために働くのだから、適当にやってはいけない。でももっと大事なことがある。働いているときも、働いていないときも、自分自身を失わないようにしなければならない。
私たちはたぶん、良いこと、正しいことをしようと頑張りすぎで、気づかないうちに自分をおろそかにしているケースが多い。もっと自分を大事にしていいし、自分が心地よいと思える場所や時間をためらわずにつくっていいんだよと、自分にも周りの人にも伝えたい気持ち。外部の基準とか壮大な目標はおいといて、自分なりに今ちょっと幸せだと思えるならそれを全肯定すればいい。読み終えて、なんとなく気が楽になった。
あと、表紙の絵もすごくいいなと思った。見てると癒やされる。