「どうしても、直木賞が欲しい」
作家・天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの?
展開のおもしろさとスピード感、作家や編集者の仕事ぶり、直木賞選考の内幕を覗き見る興味でぐんぐん読んだ。
が、主人公である作家・天羽カインのパワハラ気質がどうにも無理! ただのわがまま人間にしか見えない。読者のためにいいものを作りたい思いが強いのはわかるけれども、他者に対して暴力的に振る舞うのは人間としてだめでしょ。車の後部座席に座って八つ当たりで運転席を後ろから蹴りまくる描写で、応援する気が失せたわ。天羽先生はそれだけ強い熱意の持ち主なんだな~なんて思えるわけないし、この人はそういうキャラなんだね、とおおらかに受け入れることもできず。読んでてげんなりした。
カインを担当する編集者の態度も、作家に対してのめりこみすぎてるのが第三者から見ると恐ろしい。周囲からそう指摘されても、聞く耳持たずで突っぱねてるところがまさに。心身ともに作家と一体になって伴走したい、そうせざるを得ないという関係性の危うさにハラハラした。
そんなことだといつか破滅するぞと思っていたら、とうとう起こった禁断の一手! いや~、やっちまったな。あまりにも衝撃的で、めちゃめちゃ怖くてヒーー!ってなると同時に、ストーリーとしてはものすごく面白くてゾクゾクわくわくした。この部分を初めて読んだリアル担当編集者さん、寿命がきゅっと縮む思いがしたと思うわ。
とにもかくにも、作家というのはある意味、特殊で異様な商売だよな。全身全霊をかけて、神経をすり減らして。産み落としたものがどう解釈されどう評価されるかは、もう自分の手で関与できるものではないという点もこわい。世間に見出されてファンがついて作品を出し続けている作家というのは並大抵じゃないなと、改めて思った。