旅と日常のあいだ

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殺し屋たちに愛着がわいてくる。伊坂幸太郎『777 トリプルセブン』

 

やることなすことツキに見放されている殺し屋・七尾。通称「天道虫」と呼ばれる彼が請け負ったのは、超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるという「簡単かつ安全な仕事」のはずだった。時を同じくして、そのホテルには驚異的な記憶力を備えた女性・紙野結花が身を潜めていた。彼女を狙って、非合法な裏の仕事を生業にする人間たちが集まってくる……。

 

伊坂さんの最新作、おもしろかったー! ここ数年の作品はあまり好みじゃないなと思うことも多かったのだけど、これは文句なしに楽しくて、そのことがうれしかった。

舞台は東京のあるホテル。登場人物のほとんどが殺し屋(『業者』と呼ばれている)で、人があまりにも軽くぽんぽん死ぬ。腕がかゆかったからかいた、くらいの気軽さですぐ殺す。リアルに考えたら相当に凄惨な現場だけど、描写に悲壮感がないからするする読める。

軽妙な会話と追いつ追われつのハラハラな展開で、伊坂さんの醍醐味が炸裂。逃げる者と追う者が廊下やエレベーターを行ったり来たり、その動向を互いにカメラやイヤホンで探り合い、ドアやベッドの物陰にひそんで攻撃に備える。どのページも、スリルと疾走感にドキドキしっぱなし。読むのを中断できず、真夜中に眠気を振り払いながら読み切った。

天道虫の強さにしびれるー! それを上回って、不運の引き寄せ力がすさまじくて笑えてくる。ホテルの一室に荷物を届けてホテルから出る、それだけのことがまったくうまく進まない。次から次へと起こりまくるアクシデントにどう対応するのか、息をつく間のない展開。映画化したら楽しそうだし、じっさいされそうな気がする。ラストは幸せな気持ちになれた。柚子胡椒のバスクチーズケーキ~~!

あと、業者たちのコードネームのセンスが最高。マクラ&モウフ、アスカ、ナラ、ヘイアン、コーラ&ソーダなどなど。

本作は伊坂さんの「殺し屋シリーズ」四作目という位置づけ。また順番に読み返したくなったなー。ちなみに、一作目『マリアビートル』では、乗った新幹線からどうにもこうにも降りられなくなってた天道虫。徹底的に騒動に巻き込まれる男である。『777』にはこの新幹線エピソードもちょいちょい出てきて、つながりが楽しかった。