コロナで派遣切りにあった「私」は食いつなぐためにイタリアンレストラン「フェスティヴィタ」に辿りつく。ベテランのマナルイコンビ、超コミュニカティブでパーリ―ピーポーのヤクモ、大概の欠点ならチャラになるくらいかわいいメイちゃん、カレーとDJに目覚めたフランス人のブリュノ、ちょっとうさんくさい岡本くん……バイト仲間との愉快で切実な日々を描いた作品集。
文章のテンポの良さ、会話のリズム感と疾走感が、金原ひとみテイスト全開で最高。単語や言い回しに今この時代のリアルな空気感があって、読んでる間ずっと気持ちよかった。
主人公を取り巻くバイト仲間は基本的にポジティブで明るくて酒好きのいわゆる「陽キャ」ばかり、それぞれが強い個性や打ち込めるものを持っていてキラキラして見える。その中にあって、何者かになりたいけどなれない主人公が自分の普通さに落ち込む気持ち、よくわかる。「何者かになろうとしなくていい」「普通であることは貴重だし尊い」というメッセージが、「何者か」VS「普通」の対比なのではなく、何を選んでもどうあってもあなたはそれでいいんだよという全肯定に感じられてなんか救われた。
と同時に、キラキラして見える人にだってもちろんそうでない面もあって、悩みや差別や葛藤や迷いがありながらもその自分で生きているということ。当然といえば当然なんだけども、他人と自分を比べたり羨んだり、自分が持っていないもののことで卑屈になったりしてると忘れてしまうよな。
痛快なキャラクターに引っ張られて、知らず知らず元気になれる小説だった。キャラが元気いっぱいだからというだけじゃなくて、ほんのちょっとした選択や考え方次第で、自分をとりまく世界の見え方や価値観は変わりうるんだという希望によって。金原ひとみを読むといつも刺激を受けるし、読む前の自分とは何かがちょっと違う自分になったような気になる。この感覚が好き。
作中で説明される「ハジケテマザレ」の元ネタに「へー!!!」ってなったよ。