旅と日常のあいだ

石川県発、近場の寄り道から海外旅行まで。見たもの、食べたもの、面白いことの共有。


しんどさも含めて人生を肯定してみたくなる。金原ひとみ『ナチュラルボーンチキン』感想

 

なんといっても文章がうますぎる~!あふれるような流れるような怒涛のうねり、スピード感、リズムが本当に気持ちいい。言葉選びのセンスが良すぎてニヤニヤがとまらない。どのページもどの部分も、読んでいてただただ爽快だった。

イレギュラーを嫌いガチガチのルーティーンを守って暮らしている主人公が、陽キャでパリピでホスクラ通いの平木さんと関わっていくことで物語が動き出す。平木さんがもう最高~! 自由すぎ、のびやかすぎて憧れちゃう。在宅勤務しつつ自宅バルコニーで裸でワインと生ハムをつまんだり、彼氏がいるのに担当ホストに入れ込んだり。めちゃくちゃなようだけども振る舞いや考え方が一貫してて、主人公が感じているように「強引だけど品がある」。平木さんを見てると、こういうあり方もオッケーなのかー、っていうか本来どんなあり方も生き方もオッケーなんだよね、自分の好きに選べばいいんだよね、と思わされる。実際にそれをできるかどうかはともかく、人の目を気にしたり人にとやかく言われたりする筋合いなんかないんだよな。

主人公をとりまく人物のキャラクターや立場はみんな強烈。誰も私と似てないのに、全員になにかしら共感できる部分があって愛おしく思えるのが不思議。そしてとにかくみんな、ものすごくよく考え、よく思考をめぐらせ、自分の言葉でよくしゃべる。そこがいい。金原作品のそういうところが好き。

バンドマンの「まさかさん」のキャラも実にいい。ステージ上では客をあおりまくって悪魔的パフォーマンスを見せるんだけど、日常では物腰柔らかで細かいところに気がつくおじさん。「付き合ってないという体(てい)でお付き合いしましょう」とか提案してくるまさかさん。好き。

ルーティーン外のことばかり降り掛かってくる主人公は、何を感じ何を選ぶのか。悩みや痛みや絶望を経験しながらも、思わぬ角度から愉快さや心地よさやおもしろみが現れて自分に作用していくのが生きていくということなんだなと思った。読み終えて、なんか妙にしっくりきたというか、自分にとって救いになる小説だったなと思う。

▼オーディブル先行作品。耳で聞いたらさぞ気持ちよかろうと思う。(私は紙の本で読んだ)