旅と日常のあいだ

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清々しくて笑えて、絶対に主人公を好きになる。『成瀬は天下を取りにいく』感想

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。

『成瀬は天下を取りにいく』。ネットや書評の話題作を読んだ。青春少女滋賀小説といえばいいのかな。もう、ただただ最高。成瀬あかり最高。読んで元気出た。

まずタイトルの響きがただごとではないし、冒頭の「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」のインパクトときたら。こんなにも風変わりで愛すべき主人公がかつていただろうか? 私って変わってるでしょ?という奇異さアピールもなく、私って天然でしょ?というあざとさもなく。ひたすら自分の信念にしたがって、他者の評価などみじんも気にせず淡々と飄々と突き進む、それが成瀬あかり。

島崎という「凡人」な友人の視点を通すことで、読者は変人成瀬を血のかよった愛すべき人間として受け止められる。島崎と成瀬の、相棒としての関係性がとてもいい。いつのまにか成瀬の唯一無二の魅力に引き込まれてしまう。

セリフも地の文もテンポが良くておもしろくて、ニヤリとほくそ笑んでしまう箇所多数。かつ、ほろりとしたりうるっときたりの場面もあり。成瀬が終盤ですこし成長を見せるところもまたいいんだよね。心がほわほわする。

おもに中学~高校のエピソードが語られるのだけど、これが大人だったらこんな爽やかさはないだろうし素直に読めないと思う。恐れ知らずで自意識過剰な10代ならではの一瞬一瞬のきらめきがあるからこそ、もう自分は決してそこに戻れないという切なさや憧れも含めて、成瀬やこの物語全体がとても愛おしく感じられるんだろうな。

成瀬のことはもちろん、誘われて漫才コンビを組みM-1予選にまで出ちゃう島崎も、成瀬に思いを寄せる西浦くんも、それから滋賀県も琵琶湖も西武も好きになっちゃう。成瀬のその後をぜひ読みたい。もっと成瀬に会いたい。