マスキングテープとか塗り絵とか、いつも未知かつ深淵なる世界を私に見せてくれる妹が、クッキー専門店の「ステラおばさん」で月に何度かクッキー詰め放題をやっているよと興奮気味に教えてきた。
店にあるビニール袋に好きなクッキーを好きなだけ詰めて880円。何をそんなに興奮することがあるのかというと、妹いわく、「詰めっぷりが尋常ではない。詰めるというより、載せる、はさむ、積み上げる、その技術。ネットで検索してみて。びっくりして震えるから」とのこと。言われたとおり検索すると、出るわ出るわ、詰め放題の常識を超えた恐るべきクッキータワーの写真がいっぱい発見された。
そして先日、妹から「私も詰めてきました」のメッセージとともに送られてきたのがこの写真。
目を疑った。もはや「詰める」なんてレベルじゃない。袋の端から2.5倍くらいの高さ!!
袋からいくらはみ出してもステラおばさん的にはOK、手や指で支えることなくレジまで持って行ければクリアとのこと。妹はこれをやっているとき、緊張と興奮で全身が発汗して暑くなり、口の中が乾き、右手も左手も震えがとまらなかったそうだ。見知らぬ人に「すごーい」と言われながら積み上げたとのこと。一人で。帰ってから数を数えたら32枚あって、定価なら2300円以上の分量であったらしい。
「詰めているときは枚数のことなんて考えていられない。頭に思い描いていた作戦どおりにもいかない。とにかく興奮する。おばさんの魔力はものすごい」と妹。ステラおばさんにこんなにも興奮している妹がいろんな意味で心配なんだけど、そこまで人を狂わせるステラおばさんの詰め放題とは。
話を聞いてまんまと興奮が伝染した私、もういても立ってもいられなくなってステラおばさんの店に行った。会社の昼休みに、一人で。そして詰めた。一段目はぎゅうぎゅうに、二段目はすきまを作りながら……と、ネットで得た戦術をもとに厳かに詰めた。手先の器用さにかけては自負がある私、結構いい線いくんじゃないか、妹には負けないんじゃないかと思っていたのだが。
結果、24枚で1800円分。
妹は、32枚で2300円分。
ううっ、足元にも及ばない。妹よ、姉の屍を超えてゆけ……っ!
妹がしきりに言っていた興奮と震えも体感。トングをつかむ右手が震えるし、袋を持つ左手も震える。楽しみながらワイワイと詰めるなら緊張しないはずなのに、どれだけお得に無駄なく美しく詰められるか、私とクッキーの真剣勝負という覚悟で挑んでいるせいで楽しむどころかつらかった。たぶん背中には悲壮感すら漂っていたと思う。会計が済んで店を出て横断歩道を待っているとき、膝まで震えていたもの。安堵感なのか達成感なのか。我ながら意味がわからんよ。
というわけで翌日の朝食。いろいろ不足だし、いろいろ過剰である。もちろん全部は食べていない。
ステラおばさんのクッキー詰め放題は毎月9のつく日+週末などにイレギュラーで開催。行けばみんな、おばさんの魔力にからめとられて震えだすことだろう。私はまたやりたい。ていうか、妹も私も、ステラおばさんでクッキーを買ったの初めて。味も知らずにやったのだが、美味しいよステラおばさん。