旅と日常のあいだ

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梨木香歩 『雪と珊瑚と』感想

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『雪と珊瑚と』 梨木香歩、角川文庫

あらすじも何も知らず、書店て背表紙だけを見て買った。梨木さんの小説は『f植物園の巣穴』も『村田エフェンディ滞土録』も『家守綺譚』も非常によくて、日常と地続きに現れる非日常の気配がたまらなく好きなのだが、『雪と珊瑚と』はそうではなかった。現実世界の話。こんなタイプの小説も書くのねと再発見。そして、(残念ながらいい意味ではなく)現実感が薄くてちょっと肩すかしな印象もあり、梨木さんの作品がぜんぶ手放しで好きというわけではないのだな私は、ということも発見。

雪と珊瑚と (角川文庫)

雪と珊瑚と (角川文庫)

 

 小さな子どもを抱えながら生計を立てねばならない主人公の女性が、街でふと目にした貼り紙をきっかけに子どもを預かってくれる女性と出会う。過去の経験を活かしてパン屋さんでアルバイトを始めるもの、店主の都合で閉店することが決定、これからどうやって生活していこうかというときに、料理を勉強して自分でカフェを開こうと決意。

カフェを開くのが簡単であるはずはなく、食材の仕入れ先、料理を教えてくれる人、店舗となる物件、厨房機器などなどが必要。もちろん少なくない額の資金もいる。が、シビアな状況下のはずなのに、さくさくと事が進んで簡単(に見えるよう)に開業にいたるのだよね。カフェ開店のノウハウが小説の主軸なわけではないからそれでもいいんだが、なんだろうな、どうも肩入れできないタイプの主人公なので読みながらイライラしてしまった。本人はフワフワぼんやりしているのに、貼り紙で出会った女性をはじめ周囲の人々の縁があって、さしたる苦労もせずにうまくいっちゃうっていうのが、虫がいいっていうか、いけすかないっていうか。いけすかないっていう感想も変だな、私は主人公に嫉妬してんのかしら。「私ならもっとうまくやれるのに!」みたいな。うーんそれも違う。

そういえば、先に挙げた大好きな三作品はどちらも主人公が男性だと気づいた。もしかして、梨木さんが描く女性主人公の造形が苦手、とかなのかな。それを確かめるためにも、ほかの作品も読んでみよう。あと、家守綺譚の続編である『冬虫夏草』、早く文庫化してくれないかなー。

 ▼梨木作品の中でも特にお気に入り二作の感想はこちら