旅と日常のあいだ

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性に奔放な生き物たち。『南極探検とペンギン』がおもしろい

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『南極探検とペンギン』ロイド・スペンサー・デイヴィス著

「本の雑誌」および日経新聞書評欄の紹介にひかれて手に取った。数年前から南極および北極探検ものが好きでときどき読んでいるのでおもしろかった。歴史や知識がつながって「あ~、あれね!」ってなる。そしてほとんど何も知らないペンギンの生態について、びっくりするような事実が明らかになり「えっ?」ってなる。ペンギンめ、かわいい顔して実はけっこうエグい。(ちなみにこのブログのPCページのタイトル写真は南極のペンギンです)

2012年、イギリスの博物館でとある論文が発見される。それは100年前に書かれたもので、内容が衝撃的なため公開されることなく封印されたものだった。書いたのは南極探検隊員のマレー・レビックで、内容は南極で観察されたペンギンの生態について。彼が見たのは、ペンギンの同性愛行為、不倫、売春的な行い、メスの死骸と交尾するオス。100年前の社会においては絶対に明るみに出せない堕落な行為であり、レビックは人に知られぬよう暗号のつもりのギリシャ文字で記録を書き残していたのだ。

冒頭のこのつかみで、もう興味津々。本書では、単に知られざるペンギンの生態を解き明かすだけではなく、なぜ記録を隠す必要があったのか? レビックが南極探検に関わった経緯とは? 彼はどんな人物で、南極でいかに過ごしたのか? ということが並行して語られる。著者による、レビックという人物の謎解き要素が加わっていて、ミステリーチックに読める。

レビックが参加していたのは、イギリスのスコット探検隊。ノルウェーのアムンゼン隊と南極点初到達をめぐって争うことになる(レビックは南極点メンバーには加わらず、別部隊で別行動)。この競争だけでもエピソードてんこもりで、スコットがやっとこさ南極点にたどりついたときにはすでにそこにノルウェー国旗が立っており、競争に負けたことを知ったスコットたちは、絶望しながら帰還する途上で全員死亡する。

別行動のレビック隊もさんざんなもので、迎えの船に乗ることができず冬の南極に置き去りにされてしまう。備蓄品たっぷりの小屋とかじゃなく、雪がふきすさぶ荒野の中、服も食料も燃料も不足しているなかで数ヶ月を生き延びることになる。その過酷すぎる日々の具体的描写がすさまじい。まったくもう、においたつようなリアリティ(もちろん悪臭)。暗い雪洞の中に身を寄せ合い縮こまって過ごす男たち、灯りや調理に使っていたアザラシの脂で服も顔も髪も真っ黒。栄養不足のため内臓が機能不全になり排尿のコントロールができず、しかし着替えなどあるわけないので着ている服は常に汚れて濡れている。それでも帰還をあきらめず、残された食料や燃料を厳格に計算して、来るかどうかもわからない救出を待つことの精神力、強すぎる!!! 

著者自身がペンギン研究者であり、自身が観察したペンギンの実態が、すでに100年前にレビックによって発見されていたことに驚いたり、さらに新しい事実や考察を重ねたり、そこらへんの組み立てもおもしろい。タイトルのとおり、南極探検史やペンギンについて、一冊でいろんな方向から「なるほどー」と思える本だった。

オスペンギンは、メスの死骸だけじゃなく、寝かせておいたペンギンのぬいぐるみに対しても交尾を試みるのだって。貪欲。そしてスコットが南極で死を覚悟して妻への手紙を書いていたそのころ、妻は北極探検の大家・ナンセンと不倫中だったのだって。ひどい。

▼2018年に南極ツアーに行ったときの記録。もちろんペンギンもいた。性的に堕落していたかどうかは…わからない。

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▼南極探検本ではこちらもおすすめ。 南極にはドラマがありすぎる。

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