江戸時代、出羽国の貧しい農家に生まれながら算学の才能に恵まれた最上徳内は、師の計らいで蝦夷地見分隊に随行する。そこで徳内が目にしたのは厳しくも美しい北の大地と、和人とは異なる文化の中で生きるアイヌの姿だった。いつしか徳内の胸にはアイヌへの尊敬と友愛が生まれていくが……。
西條奈加『六つの村を越えて髭をなびかせる者』読了。
最上徳内、名前は聞いたことあるけど何した人だっけ…と思いながら読み始める。当時の日本人にとってはまだ未知の世界であった蝦夷地に九度も渡った実在の冒険家。物語は史実に沿っていて、ありとあらゆる困難が降りかかるなかでこんな冒険を成し遂げた人がいたのか!と驚いた。
寡黙で感情をあまり露出しないタイプの徳内だが、こと蝦夷に関しては芯から熱いものがたぎってきて止められない。蝦夷探索の動機は、お役目だからという義務感とか名を上げたいとかではまったくなく、自分の内側から生まれてくるただひたすらな好奇心と探求心である。好奇心は自分を動かす何より強い理由になるけれど、実際に行動してやりきるためには持続力や体力も必須。徳内はそれらを兼ね備えていたというのが、運命的というか天からの贈り物というか。
やる気があってやれるだけの力がある。だからこそ、時の為政者のさじ加減ひとつで、あるときは評価されたりそれが不当にくつがえされたりすることが、読んでて歯がゆいし腹立たしいことこの上ない。後ろ盾であった老中・田沼意次は広く先を見据えたうえで蝦夷開拓という大胆な策を推進したけれど、これが松平定信に取って代わられた途端に蝦夷開拓は全面NGに。おい松平!たいした考えもない若造のくせに、田沼憎しの感情だけで適当なことばっかりして!!と怒りたくなる。お願いだから渡辺謙もっとねばってくれ~と、「べらぼう」と感想がまざりがち。
ともかく、とてもおもしろかった。時代背景をもっと知りたくなるし、蝦夷開拓の歴史やアイヌについても知識を深めたくなる。地図のない土地や秘境に入っていく緊張や興奮もあって、そういえば私は極地探検ものが好きだったなということも思い出した。
