旅と日常のあいだ

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凪良ゆう『汝、星のごとく』感想

 

愛は尊い、愛は地球を救うという世界の中で、わたしたちの愛はなにひとつ救ってはくれない。どちらかというとそれは呪いに近く、そういうしんどさを知っているわたしたちは、同じ根っこから咲いた別の花のような親しさを互いに感じている。

 

凪良さん作品を読むのは4作目。すべて好きだけど、本作もとてもよかった。人のささやかな心情をすくいあげて言語化することがうますぎる。複雑な背景や特別な事情を抱えた人物たちの気持ちを、無理なく理解させ、共感させる文章。丁寧な書き方なんだけど決して説明過剰にならないちょうど良い加減で、読んでいて心地よかった。

冒頭の一文は、こう。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。」

ざっくり言うと、「正しいこと」「そうあるべきこと」にとらわれて自分が本当に大切にしたいものを見失いそうになりながら、それでもこの世界で生きていくしかない彼や彼女たちの、喪失と再生の物語。主人公は瀬戸内の島に暮らす17歳の男女で、ともに母親のケアをしているという共通項をもっている。

他者の目や評価を気にせずにいられない小さな島のコミュニティとか、心理的経済的な負担となってのしかかってくる親とか、読んでる側としては、そんなもの切り捨てて自分の未来を生きて!と思うんだけど、そういうわけにはいかない彼らの辛さや愛憎や感情がよくわかって、しんどい。でもだからこそ、主人公が少しずつ、自分で選び、自分で決断し、いろいろな意味で自立していく姿がまぶしくて尊い。

とても印象的で重要な役割を担う大人が2人登場する。ひとりは、主人公の家族を壊した原因であると同時に、主人公の自立を強く後押するという複雑な立ち位置にいる、刺繍作家の瞳子さん。

「わたしは仕事をしていて、それなりに蓄えもある。もちろんお金で買えないものはある。でもお金があるから自由でいられることもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う」

自分のために、自分で選び取って生きていいんだということを、何度でも真剣に伝えてくれる。瞳子さんの姿勢は常に一貫していて、妻子ある男性を奪って同居しているという立場なのに「私は私のやりたいようにする」と清々しいくらい堂々としていて、そのブレなさに憧れてしまう。

もうひとりは、主人公が通う高校の北原先生。飄々としてつかみどころのない、でも本質だけをすっと端的に示してくれる存在。瞳子さんとはまた違うタイプだけど、良き理解者であり道しるべとなってくれる。しかしこの北原先生がなんとも曲者。最後まで読むと、わけありな冒頭の一文にすべてがつながって、その意味する景色ががらりと一変。びっくりするのと切ないのとで、なんかもう、胸がぐちゃぐちゃになった。いいでも悪いでもなく、誰に何を言われようとも、そうするほかなかった選択の結果としての未来。

読み終えた直後はもちろん、翌日もそのつぎの日も余韻があり、心に留まったフレーズを見つめたり、彼らの気持ちを思い返したりするような読書だった。瀬戸内の海や光、主人公が作るようになるビーズ刺繍の繊細なきらめきが目に浮かぶ。凪良さんの作品には今後も期待しかない。

 

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