旅と日常のあいだ

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西加奈子『夜が明ける』感想

若年層の貧困、児童虐待、ブラック企業での地獄のような労働といった問題を織り込みながら、30代男性どうしの友情や絶望や救済を描いた長編小説。

 児童虐待とか子どもの貧困って、当人には何の落ち度も原因もないのに、生まれついた家庭環境とか家族の人間関係によって、選択の余地なくそこに落ちてしまうという現実がめちゃくちゃ重くてつらい。ほかの世界を知らない子ども本人にとっては、虐待を受けてることも貧困であることも、こういうものなのかなと受け入れてあきらめるしかないというのがまた、抜け道が見えなくて苦しい。

作中に、「助けを求めることは恥でもなんでもない、当然の権利なのだからどんどん声を上げていい。意地とか勝ち負けとか言ってる場合じゃない」というメッセージが強く出てくる。特別目新しいことを言ってるわけじゃない、これまでにも聞いたことのあるようなフレーズなんだけど、暗くてしんどい物語の中にあっては、このメッセージが非常に大きな救いや希望として響いてきた。

助けを求めることにためらう必要なんてまったくない。周りを頼って、使えるものは使って、とにかく生き延びればいい。勝負のためではなく、自分のために、声をあげてやるべきことをやる。誰もがそうできる世界であってほしいし、そうあることをおかしくもなんとも思わない自分であろう、と思った。

と、書きながら、虐待も貧困も経験していない私がこんなふうに言うのは、しょせん痛みを知らない綺麗事なんじゃないかという思いもある。本当に切実にしんどい状況にある人には声を上げる方法も体力もなく、どうにか声を上げたところでどこにも届かないという現実もあるんじゃないか。それでも、そういう可能性に思いを馳せながらも、せめて自分のできる範囲、見える範囲のしんどさを解消しようとすることは悪いことじゃないはず。

▼前に読んだ新書。貧困というワードつながりで。

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