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斜線堂有紀『回樹』感想。奇抜で粒ぞろいなSF集

 

回樹

回樹

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SF6編の作品集。「本の雑誌」で大森望氏が推していたので読んでみた。どれも発想が特異で奇想、でもいつかどこかの時代と世界にはありえそうだと思わせる世界観が絶妙。6編それぞれ、短くまとまっていながら情報や設定が凝縮されていて、どれも粒ぞろいで楽しめた。おもしろかったー!

好きだったのは、人間の死体が腐らない世界「不滅」。テロリストが明かしたある秘密が、情景を想像するとめちゃくちゃホラーで恐ろしいんだけど、その選択を正しいとか正しくないとか言い切れない事情があって「うーん」と考え込んでしまう。

さらに好きだったのが「奈辺」。6編の中で一番好き。奴隷制度下のニューヨークの酒場で白人と黒人の諍いが起こるのだが、そこに緑色の皮膚をもつ宇宙人が乱入。白か黒かという違いを前提から吹っ飛ばすグリーンは思考回路もパワーも人間とは違って(じっさい人間ではないんだけど)、未知のやり方で肌の色の問題に介入していく。そのあとに起こる、登場人物たちの見た目の変化と内面の変化がおもしろくて痛快。そして終盤、ここまでか……とあきらめてからの真相とオチの付け方がいい。スカッとする。わいわいにぎやかで楽しい後味だった。

よくできたSFに唸らされたい欲がある一方、SF界隈にまったく詳しくないし玉石混交な気がして、自分の選択眼ではさっぱり手が出せないジャンル。そんななかで、大森望さんのガイドをものすごく頼りにしている。今回もあたりだった。ていうか、前情報なしで、タイトルと表紙絵だけでおもしろさを見抜くの至難の業。とりあえず斜線堂有紀さんがおもしろいのはわかった。ほかの作品も読んでみる。

▼これまでで最強におもしろかったSFといえば『なめらかな世界と、その敵』