『Q-1グランプリ』決勝戦。クイズプレーヤー三島玲央は、対戦相手・本庄の不可解な正答をいぶかしむ。彼はなぜ正答できたのか? 真相解明のため彼について調べ決勝を1問ずつ振り返る三島は──。一気読み必至! 鬼才の放つ唯一無二のクイズ小説。
私の今いちばんの推し作家、小川哲さん。『君のクイズ』のテーマは早押しクイズで、歴史をめぐる虚実まぜこぜの壮大な『地図と拳』や『ゲームの王国』とは構成も世界観もまったく違う。ジャンルを超えた作風と間口の広さ深さに驚くばかり。
早押しクイズという競技における、目に見えない部分のスリリングな駆け引きがめちゃくちゃおもしろかった。問いに対して単に知識を素早く引き出して答えるというだけのことではなく、あるべき問題文の形を想像し、競技クイズの作法や定型にのっとった最適解を見つけ出すこと。それを問読み(問題文を読み上げること)のできるだけ早い段階で見極めて、無数の選択肢の中から唯一の答えを絞り出して確定させること。クイズプレイヤーの脳内ってこんなことになってるの…?!と絶句する。解答に至るまでのあまりにも深く激しい思考のはたらきが垣間見えてとても興味深い。問題文が発音される前に、口の形から次に読まれる単語を予想して答えを導き出すとかね。百人一首か、っていう。
もうひとつ、作中に何度も出てくる「クイズが人生を肯定してくれる」というフレーズが印象に残った。「クイズとは人生である」という言い方も。「○○とは人生そのものです」ってよくある決まり文句な感があって(情熱大陸とかTVチャンピオンでよく出てくる感じ)、「生涯ずっと取り組んでいきたい」くらいの内容だととらえてた。それが、この小説においてはそうじゃなくて、もっともっと深いところの意味合いで。これまでに見たもの聞いたもの、出会った人、関わったできごとのすべてが意識的または無意識的に自分を作り、記憶や知識や経験が互いに関連付けられ、それがクイズの問題文を作り、いつか解答になりえるという無数の積み重ね。生きていることそのものがクイズを作り、クイズに正解することが自分を(自分の人生を)肯定してくれる…という感覚は、これまでに持ったことがない新鮮さだった。そういう感触、快感があるから、クイズプレイヤーはクイズをするのか…!という発見。まさにクイズとは人生であり、同時に、人生があってのクイズなんだなというのが、ものすごく身に迫って腑に落ちた感じ。
表紙の英題は「YOUR OWN QUIZ」=君自身のクイズ。ほかの誰に向けたものでもなく、君の人生を生きてきた君のためのクイズなんだというところに、すべてが詰まってる。