旅と日常のあいだ

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小川哲『ゲームの王国』感想

 

サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。貧村ロベーブレソンに生を享けた、天賦の智性を持つ神童のムイタック。皮肉な運命と偶然に導かれたふたりは、軍靴と砲声に震える1974年のカンボジア、バタンバンで出会った。秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺――百万人以上の生命を奪ったすべての不条理は、少女と少年を見つめながら進行する……あたかもゲームのように。

歴史や革命や政治を巻き込んだ、あまりにも壮大で一途な友情小説…だと言っていいと思う。最高の相手と最高に楽しいゲームをするための、人生のすべてをかけた追求。

奇人変人ばかりが出てきて、その変人ぶりの描写がめちゃくちゃおもしろい。なんと言っても「輪ゴム」「泥」「鉄板」。彼らの見ている世界や論理やその現出の仕方が独特でわけがわからないのにとにかく引き込まれる。読んでいて、くすりあるいはニヤリと笑わせるシーンとワードもよくて、「いい感じの石」とか「糞問答」とかもうね…。何のことやらまったくわからないと思うので、どうぞ作中の文脈において存分に楽しんでほしい。

上巻から下巻で舞台や状況が一変し、読み手として翻弄されるのもまた楽しい。歴史色が濃かったのが急激にSFめいて、作者の創造力の広がりと深さの果てしなさに呆然とする。ラストはファンタジー風味も増して、序盤中盤の印象とはまた違った。主人公が最後に訪れた場所がどこなのかわかったときには涙腺崩壊。こうくるのか…。小川さん、もうどこまででも連れていってください!ってなった。

ジャンル分けとかあらすじ紹介があまり意味をなさない、ともかく全編を読んで体感するしかないというのが、同じ作者の『地図と拳』でも感じたこと。何よりとびきりのエンタメ感。おもしろかった。