旅と日常のあいだ

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食べ物と家族と暮らしのこと。宮下奈都『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。』

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宮下奈都さんのエッセイ『とりあえずウミガメのスープを仕込もう』を読んだ。雑誌に連載された、食べ物にまつわる短い文章を集めたもの。こまぎれの時間で気軽に読めそうなのと、単に私がおいしいもの系エッセイが好きだから。

食べ物がテーマだけど食べ物そのものを紹介するのではなく、つづられているのは、その食べ物がある日常の風景、暮らしのなかのひとこま、家族との時間、家族への思いなど。宮下さんが、料理することや食べることをとても大事に思っていて楽しんでいるのがよくわかる。

特に好きだったのは「トースト」。家族それぞれに食パンの厚さや焼き方の好みがあり、バターを塗ってからトーストとか、トーストしてからジャムを塗るとかリクエストはさまざま。宮下さんは、各自でやりなさいとは言わず、リクエストひとつひとつに応える。この時間がなんて楽しく貴重なんだろう、いつか子どもたちは母にリクエストを出すこともなくなって、自分でトーストを準備するようになるのだなと思いながら。あー、自分に重ねあわせてしまって胸がいっぱいになるわ。こんがり焼けた食パンのきつね色、バターのいい香り、子どものにぎやかな声、そういう明るいものに囲まれているからこそ、ふと今とは違う未来に思いをはせたときの楽しみ半分・切なさ半分の感じ。キュンとなるなあ。

というように、全体的に気持ちがやさしくなるエピソード多め。さくさく読みやすい。が、超個人的な感想として、いわゆる「丁寧な暮らし」に対してややむずがゆさを感じるタイプの私には、そこはかとなく(あるいは割と明確に)見え隠れする丁寧さに「もう、お腹いっぱいッス!」ってなる部分もあった。エッセイの主眼は「丁寧な暮らし」じゃないんだけど、丁寧なにおいに私が過剰反応してしまい勝手に興ざめする箇所もあり。丁寧さに憧れるゆえの、裏返しの発露だということはわかってるんだけどねえ。

とりあえずウミガメのスープを仕込もう。

とりあえずウミガメのスープを仕込もう。

  • 作者:宮下 奈都
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)