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生まれてくることの意味はまだわからないけれど。川上未映子『夏物語』感想

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川上未映子さんの『夏物語』を読む。大長編。

独身で恋人のいない主人公・夏子には、自分の子どもを生みたいという思いがある。その方法として精子提供を受けることを考えるが、精子提供で生まれ性的虐待を受けてきた女性に出会い、「生まれてくることには苦しみしかない。生まれてきたいと望んだわけでもないのに、なぜ身勝手に人は人を生むのか」と問いかけられる。

読みながらずっと心の中にあったのは、生まれること、生むこと、死ぬことって一体なんなのかということ。どういう意味があるのか、何を正しいものとして選んだらいいのか。ひとつだけの絶対の正解があるわけではないのに、自分の人生においてはひとつしか選べないから難しいし、苦しい。これでよかったのだろうかと、選ばなかったほうの未来と比べて悩んだりしてしまうもんなー。本当は、どんな道を選んでも自分を肯定できて、人から否定されることのない人生や世の中がいいなあと思う。

作中にも出てくるけれど、生んでくれと頼んで生まれてくる子どもはこの世のどこにもいないのだよね。生むと決めてそれを実行するのは、言ってみれば、ぜんぶ親側の勝手な選択。改めて考えたらすごい話だ。子が「生まれてきてよかった」と思ってくれるかどうかわからないのに、とてつもない賭けというか、とんでもなく責任重大なことをしているのだよな、世の親たちは。

そして私もそのうちのひとり。勝手な選択をしたからには、自分の責任のすべてをかけて、生まれてきた子を幸せにしなければいけない。生まれてきたことが幸せかどうかを決めるのは私じゃないけど、一緒にいる間は、とにかく不自由なく安心していられる場所を作ってあげたいと思う。夜中に泣き出した子どもが、抱っこであやしているうちに必死で指をしゃぶりながら再び眠りにつく、その安心しきって閉じているまぶたの端に涙の粒を見つけたときなんかに、本当に心の底から思う。どうかどうか、君がこの先、幸せでありますように。

お題「好きな作家」

夏物語

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