旅と日常のあいだ

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上生菓子の美しさにみとれる、金沢ひがし茶屋街【森八】へ

県外に住む妹が金沢に遊びに来た。「茶屋街で和菓子を食べたい」と言うのでひがし茶屋街へ行く。妹は「近くに住んでたら目新しくもないだろうに、ついてきてくれてありがとう」と言うけれど、ひがし茶屋街で和菓子を食べるなんていう金沢観光のお手本みたいな行動、日常的にするもんじゃないから心配無用。ていうか前にここで和菓子を食べたのは6年も前、しかも相手は誰あろう、この妹なのであった。

おしるこや和パフェではなく、上生菓子を食べたい気分。特徴的な建築物が並ぶしっとりと落ち着いた町並みゆえ、でかでかとした看板や派手なメニュー写真はあまり表にでていない。歩いては足を止め、控えめなお品書きを眺めつつお店を選ぶ。メイン通りを抜けて少し入り込んだ細い路地に「森八」を見つけた。その始まりは390年前という、正統派の老舗和菓子店。

上生菓子と抹茶のセット(950円)。お菓子は季節にあわせて2週間ほどで入れ替わり、その日ある数種類の中からおまかせで提供される。10月半ばのこの日、私は「玉菊」。練り切りの中は白あんだった。ふっくらとして濃淡がきれいで、なんとも雅やか。

妹は「竜田川」。奈良にある紅葉の名所。うっすら色づいた一片の葉に風情があるなあ。中は粒あん。切ってみるまで中身が違うとは思わず、嬉しい意外性に半分ずつ分けて食べた。すっきりした甘さとさらりとした口どけが格別なおいしさ。合間に抹茶を含みつつ香りや泡立ちや渋みをゆっくりと味わった。なんていい時間。

食べたあとで妹が「和菓子、ものすごくきれいだったよね。もっとちゃんと見ておけばよかった。上の紅葉とか、パッと見てすぐ食べちゃった」と、惜しむような感じで言った。そのとき、私もまったく同じことを考えていたのでハッとした。漫然と見ただけでパクッと食べてしまったけど、どんな色でどんな質感なのかもっと意識的に細部まで目を凝らして見ればよかった、そこにある繊細さや洗練をもっと感じとるべきだった、もったいないことした…って。そんな気持ちが妹とぴったり合致したのが、なんだか不思議だしおもしろい。

店を出て、辺りを散歩する。茶屋街は、夕暮れ時の色や空気が似合う場所だなあ。