文句なしにおもしろかった。帯に「予測不能のラストに向かって疾走」とあるけれどまったくそのとおり。二転三転の展開にとてつもない衝撃を受け、呆然。同時に、物語に翻弄されることの幸福を感じた。
新人作家の律は、ファンを名乗る女性から亡き姉の伝記を書くよう頼まれる。その姉の容姿は律とそっくりだったという。取材を進めるうちに不穏で奇妙な過去が明らかになり、律は窮地に追い詰められていく。登場人物の多くがなんとなく浮世離れしていたり言動がズレていて、なんだろうこの違和感というか緊張感は……と思いながら読んでいくと、終盤にさらなる混乱が待ち受けていてガツンとやられたわ。
女性が語る姉の姿と、取材によって判明した姉の姿の違い。そして、それらをもとに律が書いた姉の姿。読者が読んでいる文章のいったいどこに真実があるのか、どれが本当のことなのかがだんだんわからなくなってくる。この『みがわり』という小説の中に登場する地の文と、律が執筆した伝記部分と、それらを包含するさらに大きな存在とが行き来して、読んでいる自分の足元がどんどん不確かになっていく感じが非常にスリリングだった。
そして青山さん、文章がすごくいいなと思った。比喩やテンポや表現のよどみなさ、着眼点のユニークさ、対象を言語化するセンスの小気味よさがどれも非常に好き。この文章にもっと浸っていたい。超絶なイケメンを見て「もしわたしにもっと深い芸術教養があれば、この美男子を古代ギリシャやルネサンス時代の彫像や絵画に刻まれた人物に重ねて二重にうっとりすることができたのに」っていう発想とか、行きつけレストランのお気に入りスパゲティを「これからもずっと生きていくぞ、誰よりも長く図太く気丈夫に生きて世の行く末を何もかも見てやるぞという気になってくる」味だとか。
青山さんは初読みだけど年明け早々のいい出会いだった。他のもよむ。