三浦しをん『ののはな通信』角川書店
女ふたりの書簡小説。地の文は一切なし、1冊すべてが手紙のやりとりで交わされる。
「のの」と「はな」のふたりが、同じ女子校に通う高校時代から40代になるまでの二十数年間に交わした手紙の数々。その中には、返事が来るまえに片方が一方的に書き続けた手紙もあれば、書いたけれども届けられることがなかった手紙もある。ふたりは高校時代に恋愛関係になるけれども、そのきらめいた気持ちが永遠に続くわけではなく、その後のそれぞれの人生において離れたりすれ違ったり。立場や感情を変容させながら、大人になっていきながら、文章の交流は続くのだった。高校~大学時代は手紙で、その後はメールで。
ふたりの手紙によく登場するのが、「信じる」「許す」という言葉。もちろん知っている言葉だけれど、よくよく考えてみると奥深いというか、安易に使えない気がしてくるというか。誰かに対して「あなたを信じる」「あなたを許す」って思うのは、あなたを信じたい、許したいっていう自分の祈りみたいなものだよなぁと思った。
人を思うことの気持ちの芯ってなんだろう。後半、ののが書いた手紙は、はなに届けられることがない。はなは距離的に遠く離れた場所におり、安否も消息もわからず連絡手段がない状況になる。それでも、ののは手紙を書く。本来受け取るべき相手はそれを読まないけれど、小説の読者である私は読み、書き手の気持ちを知る。そこに思いがあることを知っている。
仲のいい2人の手紙はくだけた文体なので読みやすい反面、文体や語彙に変化をつけにくいからなのか読んでいて単調でちょっと疲れる部分もあった。が、先の展開を知りたくて知りたくて、気づいたら一気に読み終えていた。
ときは9月も終わるころ。読書にいい季節になってきたよね!