直木賞受賞作、西條奈加さんの『心淋し川』を読んだ。タイトルの読み方は「うらさびしがわ」。漢字変換に手間どる。
江戸のとある小さな町、よどんだ川べりにひしめく貧乏長屋に暮らす人々を描いた6つの短編の連作集。1話ずつ登場人物が異なり、趣も展開もそれぞれ。どれもおもしろくて心にしみる。さっき出てきた人物が別の話にもちらりと登場したりして、町や住人の生活が立体的に想像できるところがよかった。
江戸が舞台の時代小説を読むと、江戸者の人情とか自分なりに道理をちゃんと通すところとか「粋」ということとかを、いいなあ格好いいなあと思う。こんなふうにありたい、うらやましいと憧れをもつ。でも別に、江戸時代じゃなくても江戸っ子じゃなくても、粋で人情味があって道理を通す生き方は選べるはずなんだよなー。自分がそうあろうとすれば。反対に、粋でもないし人情味もない江戸っ子だって実際には存在してただろうし。
全編とおして、誰もが大小の悩みや生きづらさをもっていて、それに折り合いをつけながら日々を生きていくことの切実さや愛おしさがあふれていた。悩みや苦しみに嘆いたりもがいたり、でもその先に小さな希望や再生を見出していく姿に胸があたたかくなるような。それから、お話の構成としては、各話にちょこちょこ出てきてややワケありなふうに描かれている人物(たち)の過去が最終話で明らかになる持っていきかたが見事。よい読後感だった。
読み終えて、私も明日からまたがんばって生きようと思った。どんな立場や境遇にあっても、自分の思いを自分のやり方で貫いて恥じない姿勢であろう。他人がみたら遠回りや不器用に見えたとしても、心構えとして。