西條奈加さんの『まるまるの毬(いが)』、続編の『亥子(いのこ)ころころ』 を読んだ。心にあたたかい気持ちが静かに灯るような、いい読後感。
ちょっと前に読んだ同じ作者の『心淋し川』もそうだったけど、誰もがなにかしらの痛みや秘密を抱えていて、どうにか折り合いをつけながらもしなやかに日々を生きていくというテイスト。読むと、ああ私もがんばろう、と思える。言葉にするとなんだか陳腐だけど、読みながらも、読み終えてからも、しみじみそう思える小説だった。
舞台は江戸時代、親子3代で切り盛りしている菓子店「南星屋」。このお店の営業スタイルがよくて、実際にあったらぜひ通いたい。決まった看板商品というのはなくて、売るのは毎日2品だけ。かつて全国を流れて菓子修業をした店主が、その日の天気や気分にあわせて、各地の銘菓を日替わりでこしらえる。多くの人に気軽に買ってもらえるよう値段は安め。毎日、「本日の菓子は、出雲のなんとかと、京のなんとかです〜」という口上で売り始め、待ちかねていたお客さんの行列でほんの数時間で売り切れる。お菓子の選び方とか、つくる工程とか、職人のお仕事小説としてもおもしろい。
それから、店主の弟・五郎のキャラクターが好き。相当格の高いお寺のお坊様なんだけど、とにかく甘いものに目がない。まわりにバレないようわざと貧相な身なりをして、兄の菓子屋に通いつめてはお菓子をバクバク食べて批評する。兄弟愛が深くて、兄を思う気持ちと行動力がすごい。世間的には立派でかしこまるべき人物だけど、この店では幼名のまま五郎と呼ばれ続けてるところもかわいい。愛すべき存在。
どの人にも人生があり事情があり、自分だけではどうしようもできない宿命がある。人をつらい目に合わせるのも人だけど、つらさをやわらげて救ってくれるのも人なんだよなーと考えつつ、なにしろ和菓子が欲しくなる。手をかけてきちんと作られたものを、大事に食べたい気分。