ブエノスアイレスの夜、アルゼンチンタンゴのショーが観られるレストランへ。前回までの記事はこちら(南極旅行05 ブエノスアイレスの街歩き、パシフィック・ギャラリーへ )。
予約時刻の20時にあわせてレストランへ。プエルトマデロ地区という、運河沿いの洒落た雰囲気の一角にあるマデロ・タンゴというお店。大人っぽい雰囲気でドキドキするなー。胸元のあいたワンピースにハイヒールみたいな装いが正解だったかもしれないが、こちとら荷物遅延を食らってまして、間に合わせの服を調達するのが精一杯な状況でしてね。それでも一応、フリル付きのブラウスを選んだところが私なりのフォーマル感、ということで……。誰にともなく言い訳しつつ入店。
大きなステージのすぐ真下から、椅子と椅子の間をすりぬけるのがやっとなくらいの間隔でぎっしりとテーブルがセッティングされていた。私たちのテーブルは最前列で、簡単にステージに手を置けるくらいの近さ。
ワインを飲み、サラダをつまみ、パンをかじる。30分たち、1時間たったけれどもまだショーは始まらない。そういうものなの? ショーを見ながら食事をするものだと思っていたが違うのか。メインのお皿が来てからなのかな。
肉。文字通りの、肉厚。厚さ3~4センチはあったんじゃないか。そういえば私たち、昼にジェラートしか食べてなかった。ここでパワー充填じゃあぁぁ!とばかりに肉を食らう。そうこうしているうちに21:30を回ってしまった。ねえ、タンゴショーは? これから始まって小一時間くらいパフォーマンスがあったとして、なんだかんだで終了は23時くらいか。家に帰って一息ついたらもう24時、ここにいる皆さん、今日は日曜だけど明日は朝からお仕事ですよね? 生活リズムが夜型すぎやしませんか?といらぬ心配をしたりしたが、そういえばアルゼンチンってシエスタの文化があるのだったか。
デザートを食べてお腹もいっぱいになった頃、照明が変わって幕が開いた。時はすでに22:30、いよいよショーの始まり。タンゴのステージを一度も見たことがなく予習もしていなかった私は「ギターに合わせて男女ペアが踊る」というぼんやりしたイメージしか持っていなかったのだが、ここでのショーはストーリー仕立てになっていて見どころがいっぱいだった。多いときにはステージ上に10名ほどのダンサーが上がり、芝居をし、踊り、歌う。それをステージ直下から見られるので、迫力も息遣いも表情もしっかりキャッチできた。スペイン語であろうセリフの内容は理解できないんだけど、背景とか表情とか衣装でなんとなく想像しながら鑑賞。
ダンサーたちの筋肉すごいなあ、引き締まってるなあ、この長時間動き続ける体力もすごいなあ。約1時間半のショーをたっぷり堪能。見ごたえじゅうぶんだった。
そろそろ日付も変わる頃だけれど、今夜のプログラムはこれで終わりではない。夫がこの店を予約するとき、お楽しみ企画としてタンゴレッスンも仕込んでいたのだ! それを聞いて、なんて面白いことをするんだねと笑ったのだけど、満腹感を抱えた深夜24時のタンゴレッスンて、一体どういうことなの~。
レッスンのない大多数のお客さんは、ショーの終わりとともに帰っていった。そのうち「レッスンを受ける人はおもてに集まってください」的な案内があり、店の外へ出る。ちょっと片付けをしてからまた店内に戻るのかと思ったらそうではなく、そのまま外でタンゴレッスンがスタートした。ひえー! 先生役は、さっきまでステージにいたプロのダンサー。参加者は男女それぞれ10名ずつくらいか、男女のカップルもいたし、女性グループも、男性一人客もいた。まず男性と女性に分かれて基本の8ステップを練習したあと、男女ペアになってステップを合わせてみる。先生が1組ずつきっちり「もっと近づいて、手はこう握って、この脚はもっと開いて」と指導。
深夜0:30、川べりの石畳でよろよろとステップを踏む大人たち。我が事ながら、なんとも面白い光景であった。おぼつかないながらも、ひとまず基本ステップの動きを真似できるようになったところでレッスン終了。お疲れ様でした!
店が用意したタクシーでホテルに戻る。車内でも「ウノ・ドス・トレス……」とステップを復習しつつ。それにしても実に長い一日だった。アトランタから10時間かけて移動してきて、荷物遅延が判明して、保険会社と電話でやりとりをして、着替えを買いに行って、そのあと日をまたいでタンゴのレッスンまでこなすとはね! しかしサプライズはまだ続いており、くたくたになって戻ったホテルでは、なんということでしょう、ベッドの上に花束が置かれていた。真っ白なユリとカーネーションを組み合わせた大きな花束。おお、そうだったよ、この旅は新婚旅行なのだった!と思い出したのでした。
▼翌日は、もと劇場をリノベーションした美しい本屋さんへ