これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。しかし、これほど魅力にあふれた作品は誰も読んだことがないだろう。――トム・ハンクス
『ストーナー』は完璧な小説だ。巧みな語り口、美しい文体、心を深く揺さぶる物語。息を呑むほどの感動が読む人の胸に満ちてる。――「ニューヨーク・タイムズ」
作家の小川哲さんが、千早茜さんとの対談のなかで「超、超、好きな小説」「毎ページ盗みたくなる文章」と絶賛していた。読んでみてその気持ちがわかった。静けさと揺るぎなさの合間に、鮮やかなきらめきが見えてハッとするような。とてもよかった。人が生きていくうえでの悲しみや幸福が、自分のこととしてあたたかく満ちてくるような小説だった。
舞台は20世紀初めのアメリカ、主人公ストーナーが大学を出て教師になる、その一生を書いたもの。ただそれだけで特別な事件は何も起こらないともいえるし、仕事や恋愛や結婚や子どもに関して、人生で起こりそうなあらゆることが起こるともいえる。
ほんの数時間ページをめくるだけで、誰かひとりの人生を生きた気になれるのが小説の素晴らしさ。時代も年齢も性別も職業も私との共通点なんてほとんどないのに。彼をとりまく理不尽さ、思うようにならなさ、生活における鬱屈や逃避を、なぜか近しいものとして共感できる。読んでいるあいだストーナーの行く末が他人事ではなかった。
人それぞれにいろいろな事情や感情があるけれど、人生はどれも平凡で、同時にどれも特別であるという思いを強くした。どちらにしても自分は自分のままでいいんだし、そのことを絶対的に信じて最期を迎えられたら最高だ。
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