週末、「ほたるいかの身投げ」を見に富山県魚津市に行ってきた。身投げとは穏やかならざる言い回しだが、深海に棲むほたるいかが産卵のために海面近くに浮上し、青く発光しながら一気に浜に打ち上げられる現象のこと。砂浜に宝石を散りばめたような、青白いイルミネーションがきらきら光るような幻想的な光景が見られるらしい。
いつでも起こるわけではなく、3~4月の短い期間、新月の夜に晴天と満潮が重なったときが発生のチャンス。夫がどこからか情報を仕入れてきて、4月最後の土日がいいタイミングだ、これを逃したらもう来年までチャンスはない!というので、1泊2日の弾丸家族旅行が急きょ決まったのだった。
土曜日、仕事が終わってから17時過ぎに自宅を出発。高速を走って富山県魚津市に着いたのが19時。直前に予約したルートインに荷物を置き、夜ごはんを求めて魚津駅周辺をさまよう。木の引き戸に白いのれんがかかったキリッとした佇まいの和食店を見つけ、夫がのぞいて、ここにしようと決定。子連れいける?高いんじゃない?と緊張したけど、入ってみたらほかにも家族連れの姿が。結果的に、雰囲気もお品書きも値段も、ここにしてよかったなと思える店だった。【吟彩 和ぶき】という店。
お通しの3品がのっけからどれもおいしくて幸せ(青菜のおひたし、カニのほぐし和え、魚卵の煮付け)。地元の立山梅酒と共に、お刺身盛り合わせ、ほたるいかの天ぷら、げんげ(深海魚)の天ぷら、胡麻豆腐と生麩などをいただいた。
バイ貝のこりこりした歯ごたえがたまらん。
ほたるいかの天ぷら。さっくりした衣の奥で濃厚な旨味がはじける!
ホテルに戻り、車で海岸へ。街なかは閑散としており静かなんだけど、海に近づくと車が増え、岸壁の駐車場には県外ナンバーが隙間もないほどずらり。みんなほたるいか狙い! 私たちは、浜辺で光ってるのを数匹でも見られたらいいな~という気楽な訪問者なんだけど、本気のハンターは胸までばっちり防水のゴム長靴というかウエットスーツ姿で、ヘッドライトとクーラーボックス完備。見るだけじゃなく、海に入って好きなだけ獲るのも自由なのである。
といいつつ、夫はあわよくば捕獲するつもりで長靴や網やバケツも用意していた。一体いつの間に、ほたるいかへの熱意がこんなにも醸成されていたのか謎である。子も私も長靴に履き替え、海風が冷たいので真冬のコートを着込んでいざ浜辺へ。砂地にも浅瀬にも先客がいて、ヘッドライトや懐中電灯がきらきらしていた。このとき22時くらい。子は、いつもなら寝ている時間にこんな非日常体験をしていることに興奮。眠いそぶりも見せず、「絶対にゲットするぞ!」と意気込んで網を振っていた。
浜辺にも海面にもほたるいかの姿はまったく見えず。水際に立って、柄の長さ1メートルくらいの網を伸ばしてはすくってみるも、浮遊する海藻がひっかかるだけ。でも腰まで水に入っている人たちはじゃんじゃん穫れているようで、「3匹!」「また5匹!」などの声が聞こえてくる。子は飽きずに網で遊んでいたのだけど、しばらくすると海から戻ってきた中学生くらいの少年が、「よかったら、いりますか?」と声をかけてくれ、網の中のほたるいか4匹をこちらのバケツに分けてくれた。なんというやさしさ。
生きて動いてるのをじっくり観察。途中で墨を吐いているのもいた。見ているあいだに光ることはなかった(外敵を驚かせたり目くらましの意味で発光するらしい)。ほたるいかは、お礼を言って少年に返した。少年家族は長野から来たそうで、ほたるいか獲りは2回目とのこと。今日はこのまま朝までやると言っていた。ほたるいか出現のピークである満潮時刻は午前4時頃なので、その頃ならばもっとわんさか沸いてくるのかもしれないし、浜辺のキラキラも見えるのかもしれない。が、6歳児を含むこちらはそろそろ眠気と疲れの限界。ここまでの体験でじゅうぶん満足したのでホテルに戻った。
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明けて翌日。ルートインの無料朝食には地元食材のおかずが出ることが多いが、ほたるいかの沖漬けがあった。白ごはんより、むしろお酒がほしい味。
ホテルをあとにして、ほたるいかミュージアムへ。とことんほたるいか尽くしの旅程である。3月下旬~5月下旬は、生きたほたるいかの展示や発光ショーを開催。照明を落とした真っ暗なホールでスタッフが水槽に刺激を与えると、一斉に青白い光が放たれて館内どよめき。実際に光ってるところを、やっと見られた! ほたるいかオフシーズンには、LEDで再現した発光イメージを見せてくれるらしい。言われなければわからないかも…と思いつつ、今回のは間違いなく本物だった。
手ですくってさわれるコーナー。「ゼリーっぽい」と子の感想。
富山湾の魚介の生息域を表したパネル。ボタンを押すと該当エリアのランプが光るというよくある仕掛けだけど、ほたるいかボタンは、青白い小さな光が無数にちりばめられていてそれっぽいのが気に入った。
富山市にある【氷見きときと寿司】という回転寿司店でお昼ごはん。11時の開店と同時に入ったので待ち時間なしだった。ゆでほたるいかの軍艦巻を酢味噌で。ぷりぷりつるん。天ぷらも沖漬けもいいけど、やっぱりボイル&酢味噌が好きだなあと再認識した。
午後は自宅近くで予定があったため、正午前には富山をあとにした。19時~翌日12時という短時間ながら、ほたるいかまみれの充実した滞在だったと思う。子どもも楽しかったって。何が楽しかった?って聞いたら「夜ごはんに大量の大根をもりもり食べたこと」。確かに刺身のツマをやたらと食べまくってたけど、そこですか?笑