友人Nと、金沢の有名和食処「貴船」で夜ごはんをいただくことに。昼も夜も1日4組しか予約を受けず年末まで席が埋まっているという人気店なのだけれど、Nが直前に問い合わせたところキャンセルで空席があったそうで、「誰と行くかも決めずにとりあえず予約したんだけど、興味ある?」と誘ってくれたもの。行かない選択肢はないでしょう。夜の家事ルーティーンを夫に託し、平日の仕事終わりにNと待ち合わせていそいそと出かけたのだった。
夕方、雨のそぼ降る主計町茶屋街。絵になる場所なので、狭い路地にも観光客の姿が途切れない。貴船は、浅野川沿いの道を進んだ先にある。
白いのれんが涼しげ。店に入るのは13年ぶり2回目。前回は昼の席で、そのときもNが一緒だった。どの料理もとてもおいしかったという記憶が今も薄れていない。
個室のテーブル席に案内され、まずは盃で食前酒を。期待がふくらみ、早くもいい気分。ここから、季節感満載のお料理のはじまり。
大ぶりのお盆で運ばれてきた一品目。鮮やかなあじさいに目を奪われたのち、「え、待って、魚が泳いでる…?」 なんと、ガラスの器の中で生きた鮎が泳いでいた。「あとで調理してお持ちします」との説明に、季節感とか風流とかを飛び越えて「数分後にはこの命を食べるのか…」という重みがダイレクトに迫ってしまった。すごいインパクト。
毛がにそうめん、白だつの胡麻和え。そうめんがめっちゃおいしかった。やや太めでコシのある冷たい麺に、濃厚なカニ味噌ソースとほぐし身。白だつは、里芋の茎(ずいき)の白い部分のことを言うらしい。知らなかった。
鮎のすりながし。思わず「さっきの鮎ですかっ?」と聞いてしまったが、これは別物だった。そうよね、この短時間でこうはならんよね。
お刺身、アラとバイ貝。バイ貝(手前)が大きくて肉厚でコリコリで最高だった。
鮎の塩焼き、山椒オイル。初めに泳いでいたのはこの子たち。味わいもひとしお…。
うざく。店で食べるの初めてかも(家でも食べたことないけど)。冷えたシャキシャキ野菜と、焼き立てふわふわ鰻の好対照!
太刀魚のトマトあん、万願寺唐辛子のせ。これものすごくおいしかった。太刀魚の皮がパリッと焼き上がり、身はしっとりほろほろ。トマトの爽やかさが合う。日本酒にも合う。
ハモの落とし、卵黄醤油。舞茸と三つ葉のいい香り。
鮎と新生姜の炊き込みご飯、湯葉の赤だし。ごはんはおかわりできますよというので軽く1杯よそってもらう。本当はあと3杯くらい食べられそうなおいしさ。まだある分をお持ち帰りくださいと、お土産におにぎりまで用意してくれた。
あとで廊下を見たら、1席ごとに釜でごはんを炊いているのだった。うれしいもてなし。
すいかのシャーベットと桃のコンポートをいただいて、ごちそうさま。手間ひまかけて作られたものを、時間をかけてゆっくり味わう、このうえない贅沢な時間だった。すっかり日の暮れた路地を歩いて帰りながら、幸せな気分に浸る。
たくさん食べてほどよく飲んで、お腹もいっぱい…なんだけど、これで終わらないのが私とNの底力(?)。バス停にたどりついて時刻表を見たら、次のバスは30分後。時間調整しようとあたりを見渡した結果、ミスドに入ったのである。あれだけ食べたあとの21時過ぎ、あれだけ繊細な美食のあとの高カロリー揚げ菓子。ふたり並んでドーナツを頬張りながら、ここまでを含めて私たちらしいし、こういうのが楽しいんだよなと思ったのだった。
帰宅したら、もう寝るべき時間なのに子は寝ておらず、夫と「寝なさい」「寝ない」の言い争いをしていた。別世界のようだった貴船での時間が、日常であっという間に上書きされていくぜ! せめてもの気持ちとして、鮎のおにぎりは夫にあげた。めでたしめでたし。
御料理 貴船 金沢市彦三町1丁目9−69