米澤穂信さんの『黒牢城』読了。ここ数ヶ月に読んだ小説でいちばん好き。
ミステリー各賞を総ナメしていたのでミステリーなんだなということはわかってたけど、歴史小説かつミステリーってどういうことなのか想像もつかず。前知識なしで読み始めたら、これが滅法面白かった。こういう手があったのか!という斬新さ。
時は戦国、織田信長に対抗して有岡城に籠城する荒木村重のまわりで、不可思議な事件が連続する。村重はそのたびに、地下牢に幽閉している軍師・黒田官兵衛に事の詳細を聞かせて謎解きを命じる。官兵衛は牢の外に一切出ることなく、知恵と策略をめぐらせて事件の核心をついてみせる。その冴えと読みの凄まじさに圧倒される。そして、数ヶ月にわたって謎解きに応じながらも、官兵衛は内心でひそかにある策略を練っており、それが明らかになる過程にも相当ゾクゾクした。情勢を読み、人の心を読み、その裏を、さらにその裏を読む心理戦。官兵衛の天才ぶり!
史実に沿った物語で、歴史の行方と謎解きとが並行し交錯し、最後の最後まで興味をひかれたままぐいぐい読み進んだ。村重やその部下をはじめ登場人物が多いのだけど、皆それぞれ、主人への忠義や自分の信念をもって生き、戦い、そして死んでいくという人間ドラマの部分がしっかり書かれていて、物語として読みごたえがあった。
あと、ミステリーのために舞台が設定されたのではなくて、歴史と人間のあいだに絶妙な加減でミステリー要素をはめこんだ構成がよかった。このところ綾辻行人やアガサ・クリスティを連続して読んだのだけど、これらは最初からミステリー小説を成立させる目的で殺人が起こってるわけで。確かにトリックは素晴らしいし読んでて楽しいんだけど、「で、それで?」っていう気分にもなってた。『黒牢城』は、謎解きがスリリングなだけじゃなく、歴史や人の因果に思いをめぐらせる余韻がある。いい読書だった。