乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』
これは、わたしたちの一夏の物語。
ほかの誰にも味わうことのできない、わたしたちの秘密。
この冒頭の2行。これだけでもうまぶしい。夏が起こした奇跡のような出会いを予感させて、胸がきゅっとなる。
SNSで知り合った17歳の女子ふたりが交わす気持ちのやりとりが、みずみずしくて切なくて美しい。映像が浮かぶシーンがたくさんあって、そのすべてに、かけがえのない宝物のようなきらめきを見た思い。彼女たちが互いに親友と呼べる相手を見つけた喜びが、読んでいる私にも、ものすごくうれしかった。そんなさわやかな読後感。
冒頭、彼女のうちのひとりが撮った写真の状況が淡々と説明されるのだけど、それが終盤、ふたりが共有する体験や記憶として振り返っていくところがめちゃくちゃいい。ふたりが重ねてきた時間や与えあった影響を思って胸が熱くなる。
ホームレスの「所ジョン」の存在がまたおもしろい。目の覚めるような黄色い表紙にも意味があって、なるほど!ってなる。きっとどこかで大切にされているはず。
乗代雄介さんは、『旅する練習』もとても好きだった。ありふれた日常を書いているようで、文章や構成に独特の世界がある。今後の著作も楽しみな作家さん。