夏の初めごろから私の中で村上春樹ブーム。長編『騎士団長殺し』を読み終えたあと、長編『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、自伝的エッセイ『職業としての小説家』を読んだ。
『騎士団長殺し』をおもしろく読んだという感想は前に書いたとおり。
一方、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、突っ込みどころが多すぎて、かつ謎が謎のまま投げっぱなし状態で、あまり後味がよくなかった。謎や展開が必ずしも明瞭にならないのは、まあ、いつもどおりの村上春樹らしさだとも言える。それにしても、密室殺人を発生させておいて回収しないのはあんまりでは?
導入から前半にかけて、主人公の多崎つくるがそれまでずっと大親友だった4人からいっぺんに絶交を言い渡されプツンと音信不通になる、しかし絶交の原因はまったく心当たりがなく……という設定は、謎解き感覚があってぐいぐい引き込まれた。が、後半は、「いや待て、そんなことってある!?」「そこでそんな選択をする?」と言いたくなる展開が多いうえに、肝心な部分の真相が抽象的でぼんやり。多崎つくるを仲間外れにした親友たちにも、その理由を追及しなかった多崎つくる本人にも共感できず、何だかなーという読後感だった。前半あんなにおもしろかったのに。
と思っていたところ、図書館でたまたま考察本を発見。〈村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか〉、タイトル長い。〈村上春樹『騎士団長殺し、メッタ斬り!〉、タイトルが物騒。
『色彩を持たない~』は三十数名の書評家・ライターが寄せた文章集。人によって解釈も好みも大いに分かれそうなこの作品をどう感じたのか、明示あるいは暗示されているテーマや設定にはどんな意味がありえるのか、他の村上作品との比較においてはどうか、ということが多様な視点と掘り下げ方で書かれている。なるほどね!と思ったり、そういうことだったのか、と気づいたり。作品に対する否定的・批判的な意見も、わかるわ~!とか、そうそうそれが言いたかったのよ!と膝を打つものが多々あって、これまたおもしろかった。
『メッタ斬り!』は大森望・豊崎由美氏による対談形式の作品評。総じて、「騎士団長殺しはまあまあよかったけど、色彩を持たない~はどうしようもない出来だった」という立ち位置で、言ってる内容も表現もたいへん過激。私が感じた疑問や不満を、的確かつ遠慮のない物言いでビシバシ挙げていくのが実に痛快! 「村上作品の主人公は、自分はごくごく普通の人間でまったくモテない、って言いながらめっちゃモテてるのがイラつく」っていうのとかね。あと、新刊が出るたびに読まずにはいられず、そのうえでああだこうだと口を出さずにいられないあたり、村上春樹のことが好きなのか嫌いなのかわからなくなってきた、って言ってるのも笑ってしまう。
オリジナル作品を読んだあと、書評とか考察を片っ端から読むところも含めて村上春樹作品の楽しみ方、っていうのは確実にあると思う。で、作品じたいは全然好きじゃなかったけど、言い回しとか雰囲気に妙に惹かれるものがあったなあという余韻の大きさが、他の作家より突出してる気がする。だからこれだけ話題になるし、よくも悪くも注目されるんだろうね。
雑誌ブルータスでも2号連続で村上春樹特集を組んでいて(10月15日号と11月1日号)、なんでこのタイミング?と思ったら、もうすぐノーベル賞の発表時期ではないですか。今年こそ来るか?という予想騒ぎも来年の風物詩。もし村上春樹が文学賞をとったら、ブルータスはバカ売れだな。売り切れる前に入手せよ!