旅と日常のあいだ

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ケーキが食べたくなる小説『西洋菓子店プティ・フール』

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栗のお菓子がならぶシーズン到来。バームロールのマロンクリーム味、キットカットのモンブラン味……栗好きにはうれしい季節。キットカットのパッケージかわいいなあ。おいしいモンブランを求めてケーキ屋さんに行きたくなる。

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いま読んでいる千早茜さんの小説『西洋菓子店プティ・フール』には魅力的なスイーツがたくさん出てくる。フランスで修行したパティシエールがつくる洗練されたケーキと下町の老舗洋菓子店で「じいちゃん」がつくる昔ながらのケーキ、どちらも良さがあって実際に食べてみたくなる。それぞれに信念があり、食べる人を楽しませたいという思いがあり、技術にうなったり思い出を揺さぶられたり。

ケーキの描写にリアリティがあって、姿かたちが鮮やかに思い浮かぶのが楽しい。たとえば、パティシエールがつくるピュイ・ダムールというケーキの一節。

白い皿にのっていたのは丸いタルトのような焼き菓子だった。果物もクリームもない、ソースやアイスクリームさえ添えられていない。表面に焦げめがついた、ただ茶色い塊。フォークの先端がケーキに触れて薄いガラスを割ったようなはかない音をたてる。表面がキャラメリゼされている。そのままフォークは抵抗なく下まで降りて、生地に達するさくっとした感触がした。中は淡い黄色のカスタードクリームだった。バニラビーンズがたっぷりはいっている。とろりとしたそれを口に運ぶと舌の上でなめらかに溶けた。タルトだと思っていたものはパイ生地だった。何層にもなった生地が口の中でほどける。キャラメルの甘苦さを残して、すべてはすっと消えていった。

いま目の前にこのケーキのお皿が見えてきそうな臨場感。フォークに伝わる感触も、口の中に広がって消えていく味も細部まで想像できる。こんな描写があちこちに登場するので、どうしたってケーキが食べたくなってしまうよね。というわけで今日はシュークリームを食べながら読んだ。シュークリームは作中に多く登場する重要アイテム。パティシエール製のサクサクシューもいいけど、じいちゃんのつくる柔らかしなしなシュークリームがまたいいんだ。