旅と日常のあいだ

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小説『ザリガニの鳴くところ』感想

『ザリガニの鳴くところ』読了。

各所で評価の高い小説。とてもよかった。どんなふうによかったのかを伝えたい反面、一切の前情報・先入観なしで読んだほうがいいよ!と強く言っておきたい。そんな矛盾をはらみつつ、以下ややネタバレあり。

 

 

 

 

親も兄弟もなくひとりきりで暮らしている「湿地の少女」と、その周辺で起こったある有名な青年の死亡事故(あるいは事件)をめぐる物語。

事件の謎解きより、少女・カイアの成長記録が主軸。少女が住む湿地の自然描写がとにかくリアルで、目の前に風景が浮かんでくるよう。水、草、空や雲の色、鳥の声、虫の音、水辺の砂が動く様子、太陽や星、風、木々や葉っぱが作り出す音。湿地のことなんて何も知らない私だけど、読んでいるうちにその懐の深さや豊かさに魅了された。

カイアは学校に通わず、徹底的に人間を避けた暮らしをしている。社会との接点は、たまにボートで買い出しに行く小さな商店の夫婦と、ボートでの散策中に水上で出会った少年くらい。カイアの行動や人との接し方はとても不器用なのだけど(なにしろ教育を受けず社会的な要素なしで育っているわけだから)、彼らとの交流によって知識や興味がどんどん広がっていく過程がいい。もともと持っているみずみずしい感性や好奇心に、体系的な知識や思考力がプラスされてパワーアップしていく感じ。ついには湿地の自然をまとめた著書が出版されることになる(さすがにこれは、シンデレラ要素が強すぎませんかね?という気もしたけど…)。

ここにからんでくるのが、カイアにも関係のある青年の死亡事故。物語の後半では法廷でのやりとりがメインになる急展開で「こうきたか!」と驚いた。思いがけぬ緊迫感で手に汗。評決のシーンでは、早く結果を知りたくて視線がページの先へ先へと進もうとするのを必死で抑えながら読んだ。その先にあったのは心からの安堵、そして「やられた…!」という二重三重の驚きとカタルシスだった。終盤のたたみかけがすごいわ。成長物語にミステリーの要素が入って、トリックを明かすことが目的ではないけれども一応の推理はあって、いやまさか、えっ、さらにそうくるの?というね。

なにしろ、心にいろんな種類の余韻を残す小説だった。自然描写の美しさ。カイアの健気さ、ブレのなさ、賢さ。そして、自分を絶対的に信用してくれる人がいることのありがたみ。自分ひとりを残して去っていった家族に対してカイアが抱いた気持ちを思うにつけ、いま私が親としてできることとして、我が子を全力で守り、大好きだと伝えようと強く思った。

いい小説でした。私の、今年のベスト3に入る。

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

 

この表紙絵、読み終えてから見るといっそうすばらしい。明るいような悲しいような色の風景の中、ひとりボートに乗る少女の心情が胸に迫るわ。

お題「我が家の本棚」