ミシン糸を買いに手芸用品店に行った。入口の貼り紙に「店内滞在は15分まで」と書いてある。正直、この制限は手芸好きにはなかなか厳しいぞと思った。少なくとも私は、気の向くままに布やレースを眺めることじたいが喜び。明確な目的があって選ぶというより、素敵な布と出会って「この布で作るなら何がいいかな~」と思いをめぐらせるのが楽しいのである。許されるのならば30分でも1時間でも売り場をうろうろしたい。
が、この日は初志貫徹でミシン糸だけを手にとってさっさと会計をした。所要時間3分未満。去り際に心ひかれる布が視界に入り、「あーかわいい、これでリカちゃん人形の服を作りたい」と思ったけど買うのは我慢した。なぜならば、年の初めに「今年はリカちゃん用には布を買わない」という目標を立てたから。うちにはこれまでに買った布のストックが大量にあるので(100種類じゃ済まないと思う。それこそ売るほどあるよ)、当面は新しい布を増やさないと決めたのだ。その目標を、9月半ばの今日までちゃんと守ってる。「目標だから」というひたすら純粋な理由によって自分を律している私、めちゃくちゃえらいな!
それにしてもかわいい布だった。冬の夜空みたいな濃紺の上に、白や黄色の線で描いた小さな針葉樹が並ぶデザイン。北欧の冬の森っぽいイメージで、スカート丈長めの長袖ワンピースにしたらリカちゃんに似合いそう。頭の中に浮かべては、あの布はよかったな~と未練たらしく思い出す始末だ。
目標は、「リカちゃん用【には】布を買わない」なので、他の用途のためならば買ってもいいってことよね。で、用途が済んで余ってしまった布は、これはもう仕方ない、リカちゃんに使おうが何しようが不問よね? 誰にお伺いを立てているのか不明だが、目標を達成しつつ布を手に入れるため、条文解釈の抜け穴を探している。で、そういえば夫の枕カバーを新調しようと思ってたんだった!とひらめいた。ここはひとつ、枕カバーの完成品を買うのではなく、あの布を買って自作すればよいのでは。夫の頭を乗せるにはちょっとかわいすぎる気もするが。で、仕方なく余った布でリカちゃんの服を作るということで……という話を夫にしたら、すぐさま淡々と「本末転倒」の四字熟語が返ってきて、うん、私もそう思ってた。
というわけで、堂々と好きな布を買うために、早く来年になればいいのにと思っている私である。 あと3ヶ月ちょっと。たぶんあっという間だろうな。
2017年、台北にて。何の心配もなく次に行けるのはいつだろうなあ。