森見さんの新刊(2018年11月)、『熱帯』を読み終えた。
最後まで読み終えた人が誰もいないという幻の本『熱帯』の謎をめぐる壮大な物語。冒頭には作者である森見さん本人が登場して『熱帯』の謎に迫ろうとするのだが、同じく『熱帯』にとりつかれた人物たちにより、追跡の旅は長く複雑で奇妙なものになっていくのだった。
これはもう、ちょっと今までにないような読書体験だった。読みながら、登場人物たちの過去や記憶の奥深くにどんどん入り込んでいく感覚。語り手が次々と入れ替わって物語をつないでいくのを文字で追いながら、いったいどこまでが誰の物語なのか、どこからが現実なのか、わからないままに振り回されて引っ張られる時間がとても心地よかった。
この小説の世界において、物語、記憶、現実、人生……そういうものに明確な線引きをすることは難しい。誰かの視点や誰かの経験が、また別の誰かの物語であり記憶であり現実であり、でもそれって私たちが生きているこの世界でもそうだよな、何も『熱帯』世界に限ったことではないよなとふと気づいたり。作中で、すべてがすべての伏線であり誰にでも自分だけの物語があるというようなフレーズが出てくるのだけど、自分の人生もそうであり得ると思うと、なにかとてつもなく面白くて大きな可能性を信じられるような、そんな気持ちになるのだった。
というような抽象的な感想しか書けないなあ。展開や結末を具体的に説明しても、わけがわからなくなりそう。というか、まだまだ謎が多すぎて説明できない。あれはどういうことなの、結局あの人はどうなったの、っていう点がいくつかある。それは私の読解不足かもしれないし、登場人物しか知るよしもないことなのかもしれない。でも、ぜんぶスッキリ明らかにしてくれないと気持ち悪い!ってことではなく、そのわからなさも含めてやはり面白い本だった。
もうひとつの見どころが、カバーをはずしたときの本体のデザイン。先入観なしで見たときは何これ?って思ったのだが、ある程度読み進めてから見るとあぁ~なるほど!ってなる。そして最後の最後まで読んでからカバー写真を見ると、再び「あぁ~~!」ってほくそ笑むことになる。
2018年12月26日現在、今年読んだ本の中でのベスト1です、間違いなく。