『思い出のマーニー』(ジョーン・G・ロビンソン)を読み終えての感想。ジブリの映画は観ておらず、設定もストーリーも知らないまま。冒頭で登場する少女がアンナという名前だったので「あれっ、主人公はマーニーではないの?」と思ったが、このアンナがやがてマーニーと出会い、決裂のようにみえるかたちで別れ、そして驚きの結末を迎えるまでのお話。ファンタジーでもありSFでもあるような、懐かしさと同時にスリルもあるような、実際に読んでみるまで想像もしていなかった展開で、とてもおもしろかった。
舞台はイギリス、ノーフォークという地域。海沿いの広大な湿地帯、どこまでも広がる草むら、人影のない入り江、そこに面して建つ古いお屋敷。少女たちが物語をつむぐのに完璧な設定だなと思う。私自身はそんな場所に立ったことはないのに、海風が吹く草地やその荒涼さについて想像すると、そこに現れるマーニーの姿は人間なのか妖精なのか亡霊なのかという感じですごくわくわく、ぞくぞくする感じ。その風景はなにやら浮世離れした遠い夢のようで、実際、物語の終盤でその「浮世離れ感」にひとつの説明がつく。
同時に、周囲に対して長く心を閉ざしていたアンナの気持ちや行動が変化していく過程もすごくよかった。アンナの変化が受動的なものではなく能動的・自覚的なところ、「これまではできなかったことを、今は自然にできた」と本人が気づいているところが、読んでいる私にもうれしくて気持ちよかったよ。

- 作者: ジョーンロビンソン,ペギー・フォートナム,Joan G. Robinson,松野正子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/07/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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読後、ジブリの映画を観てみたくなった。あと、「イギリス児童文学」とよばれるものを読み返したくなった。秘密の花園とかナルニア国とかメアリーポピンズとか。それらを好んで読んでいた小中学校の頃って、お屋敷、良家の子女、厳格なばあや、扉や洋服だんすの向こうにある別の世界……そういうものに憧れていたなあ。そんな思い出もひっくるめて追体験したいような、読書の季節。
今週のお題「読書の秋」