豆大福の存在感って自分の中では大きくなくて、むしろ普段は忘れているもの。
あれは去年の暮れのこと、とある友人が「東京にたいそう美味しい豆大福の店があるそうだよ、名前は群林堂」という話をしてくれた。そうか豆大福か。豆大福ね。すぐに行きたい!という動機はないけれども、いつかのために店名だけは脳内にキープ。で、先日、別の友人と東京で会うときにこの話をしたら「興味ある」ということで豆大福熱がやや盛り上がり、買いに出かけることにしたのである。
調べてみると群林堂は豆大福の超絶人気店であるらしい。ネットには、東京で三本指に入るというフレーズがよく出てきた。同じように名前が挙がるのが「瑞穂」。豆大福初心者の我々であるが、せっかくだから両方行くことに。第三の有名店は定休日だか遠方だかで見送り。
まずは「群林堂」である。午前11時ごろ、最寄駅である護国寺駅へ。駅を出て左手を見ると早くも行列を発見。店の看板は見えねども、なんでもない道路に突然現れる整列集団、嘘でしょ?と思ったが群林堂に並ぶ10人ほどの列なのであった。いったいどれだけ人気なの!と驚きつつ我々も並ぶ。
店に近づくと豆を炊く香りが漂っている。買い終わって列を離れていく人の手には、豆大福の包みらしきものがずっしり入ったビニールの手提げ。おいおい一人でそんなに買うの? 飛ぶように売れるとはこのことだね、豆大福がなくなっちゃうんじゃないかと思ったけれど(実際、売り切れ次第終了なのだけど)、さすがに昼前のこの時間はまだ大丈夫。豆大福はどんどん売れる、どんどん追加される、また売れる、また追加される。店の引き戸は開きっぱなし、いっぺんに店に入れるのはせいぜい3人というせまさで、ショーケース越しにほしいものを注文する。豆大福1つと、桜もち1つを購入した。手に持つと重い。そしてあたたかい。できたてを食べたい気持ちをおさえもう1店へ。
お次は「瑞穂」、こちらの最寄駅は明治神宮駅。こんな細い路地には入ったことないわという道を進んだ先に、看板もひっそりとした小さな店があった。再びの行列を覚悟していたが昼前のこの時間に待ち人はゼロ、あれっ、やや拍子抜け。外からは商品が見えず入店するのにちょっと緊張。こちらは引き戸をガラガラと開けて、やはりショーケースを見ながらカウンター越しに注文する。豆大福を1つ、そして最中も1つ買った。その間にも来客は途切れることがなくて、おお、行列まではできないけれど、知っている人は知っていて買いに来るのだなあと感心(?)した。
私のバッグの中には豆大福が2つ、桜もち1つ、最中1つ。友人は豆大福6つ! 家へのおみやげということだが、それにしてもそんなに豆大福が好きだったのかと尋ねれば「そうでもない」と。「そもそも、あんこじたいそんなに好きではない」という友人であるが(えっ!?)、「今ここでしか買えないと思うと、つい」っていうその気持ちはよくわかる。
豆大福たちをバッグにひそませて、我々は日比谷に行き、五反田に行き、新宿に行き、よくしゃべり、よく笑い、びっくりするほど何度も電車に乗り間違え(しゃべりすぎか?)、夜にホテルの部屋で一息ついてやっと実食タイムとなったのであった。噂に名高い豆大福、さあその味はいかなるや。さほど豆大福が好きでもない生意気な私たちに、その美味しさはどう響くのであろうか・・!?
右手前が群林堂(食べかけ)、左奥が瑞穂。群林堂の豆の多さを見よ
まずは群林堂の豆大福から。瑞穂のものと比べて表面の豆が多い。というか、これまでに私が見たどんな豆大福よりも豆が多いのではないか。大福を手に載せると、おもちの柔らかさよりも先に豆の粒つぶ感を感じるというか。そしてずっしりとくる大きさと重さ。慎重にかぶりつく。瞬間、歯と舌にぶつかる豆、豆、豆!
うわー、ま、豆だ。お餅でもなくあんこでもなく、豆がはじける。お餅はごく薄め、すぐ内側に粒あんがぎっしりで、その甘さ柔らかさとは裏腹に、表面の豆はしっかり塩気があって歯ごたえもある。どこをどう食べても、口の中に少なからぬ量の豆が入る。いやいやさすがに「豆大福」、大福の中に豆なのではなくて、豆の間に大福があるのねってくらいの豆の量である。
容赦なく押し寄せてくるこの「豆感」に心を奪われた。ものすごく美味しい。豆大福に興味なしとか言ってた過去の自分を恥じたい。歯にあたる豆の食感。豆を噛み、舌に塩気を感じた直後に柔らかなお餅がそれを受け止め、甘めのあんと一緒になって溶けてゆく。うーん、なんということだ。こんな壮大なドラマが一口ごとに繰り広げられるとは、恐るべし豆大福の奥深さ。あれから少し時間が経った今、あの味を思い出しつつこの文章を書きつつ、口の中で踊っていたあの豆たちにまた会いたい気持ち。
やばいわ、豆大福やばいわ、群林堂すごすぎるわーって言いながら、半分ほど食べたところでいったんストップして次は瑞穂の豆大福である。
……が、実は、正直に言うと、瑞穂のほうはよく覚えていない。なにしろ群林堂のインパクトが大きすぎた。群林堂の豆大福体験が強烈かつ幸福であったゆえに、その印象を超えられなくなってしまったのだよね、瑞穂は。といっても、瑞穂が美味しくなかったというわけではまったくない。
両者の違いまとめ
・お餅の厚み 瑞穂>群林堂
・豆の多さ 群林堂>瑞穂
豆大福対決、私は圧倒的に群林堂派だけど、友人は瑞穂派。好みの問題だな。「豆大福の豆は多いのと少ないのどっちが好き?」って聞かれたら、以前までは「そんなのわからないよー、そのときによる」とか答えていただろうが、今は違う。何の迷いもなく「多い方が好き」と答える。ああ豆大福。私の中で豆大福の地位と存在感が急上昇。一緒に買った桜もちより最中より、やはり圧倒的に豆大福だったのです。ほかの有名店のものも食べてみたい。