旅と日常のあいだ

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ポール・オースター 『ムーン・パレス』感想

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『ムーン・パレス』ポール・オースター、柴田元幸訳、新潮文庫

 昨年読んだ同じ作者の作品がとてもよかったので(ポール・オースター「幻影の書」の感想)、次は評判の高い長編を読んでみた。ジャンルは「青春小説」だろうか。これがもう、すさまじく面白かった。

あらすじを大ざっぱにいうと、「身寄りも貯金も失った青年が、友人や恋人の助けを借りながら生活や自分自身を立て直していく。やがてある気難しい老人のもとで住み込みの仕事を始めるのだが、この老人の昔語りを聞くうちに、老人の驚くべき正体と青年自身の過去が明らかになる」。

小説のテーマとして「喪失と再生」は大好きなのだが、この作品における喪失ぶりはすごい。どん底まで落ちる。そして再生に至る過程もまたすごい。何がすごいって、偶然の一致とか運命のすれ違いの都合が良すぎる!! いやいやいや、この広い世界でこんなにも都合のいい偶然が起こるわけないだろう、いくら作り話だからといって都合が良すぎてあり得ない!と思う。思うんだけど、話の広がり方が地理的にも時間的にも次元も壮大で、それはもう非常に壮大で、だからこの作品世界においてはこれくらいの偶然は認めなくちゃならないんだなと。後半は驚きが二重三重に仕掛けられていて、情報量が多いので読んでいるこちらはついていくのが精いっぱいなのだが、そのギュウギュウ詰めの体験がまた心地いいのであった。

各所のレビューを見ると、初期作品ということもあり構成や表現には荒削りで冗長な部分がある、との声が多い。確かに同感、このエピソードいったい何十ページ続くの?とか、ここそんなに深追いする必要ある?とかいうところがいくつかあった。

でも、読み終えて「ものすごい青春小説だったなあ」と振り返るとき、構成が予定調和じゃない感じ、パターンにおさまらない感じ、エピソードの不可解さ、しつこさ(長いなあ、しつこいなあって思うところが3か所くらいあった)なんかを全部含めて、青春とか人生ってそういうものかもと思った。時として、「こんなことってあるのだろうか」ってことが確かに起こるもんね。私たちの現実世界には。