これを食べたくて岐阜まで行きました
この秋はもう、何かの呪いなのかっていうくらい栗まみれな日々である。ここ一か月は栗を食べていない日がないと思う。そんな栗ラバーな私、先日の「究極の栗菓子「朱雀」を食べに小布施堂へ)」の2週間後に行ったのが「栗きんとんを買いに岐阜県中津川」だ。
栗きんとん。おせち料理に入っている黄色くて甘いアレではない。岐阜県中津川でいうところの栗きんとんはゆでて裏ごしした栗を茶巾でしぼったシンプルなお菓子で、中津川は栗きんとんの発祥の地であるらしい。駅前には「栗きんとん発祥」の石碑もあるそうだ。
中津川には電車で行った。私を含めて計3人、私は静岡、ひとりは北陸、ひとりはなんと当日朝に北海道から。ここまで人を動かす栗の吸引力、恐るべし。中津川駅周辺には栗きんとんを販売する和菓子屋さんがいくつかある。すべてを回るのは地理的時間的に難しいなあと思っていたら、中津川駅そばの物産館には各店の栗きんとんを詰め合わせたスペシャルボックスが売られているそうな。
「ここに行けば栗きんとんが一気にそろうね」「お店をまわる必要がないなあ」「でもせっかく中津川に来たんだから、ちょっとはめぐろう」。3人とも初めての中津川、街歩きを楽しみながら栗きんとんを買い、郊外店の分は物産館でカバーしよう。そんな作戦を練っていたのだが……
結果的にはなんと! お店には1つも行かなかった。ただの1件もだ。街歩きゼロ、なぜなら物産館があまりにも充実していたから。どれくらいの充実ぶりかというと、栗ばかり一人で6千円以上も買ってしまうほどだ。ろく・せん・えん。いやあ、会計のとき目を疑ったわ。栗きんとんはもちろん、マロンパイに渋皮煮、栗のブランデー漬け、栗入りわらびもち。栗おこわも美味しかったなー。中津川産の生栗も買い(約2キロ)しょっぱなからエコバッグの持ち手がちぎれそうである。
中津川駅の「栗きんとん発祥」の石碑もろくに見なかった。通りの向こうに石碑が建っているのはわかったが、通りを渡るのが面倒くさい。友人がスマートフォンでパシャッと撮った写真を画面上で拡大し、「栗きんとんって書いてあるっぽい」ということで石碑の件はOKとした。怠慢にもほどがある。そんなわけで我々の中津川滞在は、イコール「物産館への滞在」であり、中津川の町並みとか和菓子屋さんのたたずまいを一つも知らぬまま折り返しの電車に乗ったのであった。ひどい話だね。
急いでいたのには理由があって、絶対に食べたいと思っていた「栗一筋」というケーキのためである。栗一筋は、恵那川上屋というお店で提供されているもの。最寄駅はここ中津川ではなく二つ離れた恵那駅であり、しかも恵那駅から店までは路線バスも通らない3キロの道。行ってみて売り切れだと目も当てられないのでお店に電話したところ、「売り切れることはないけれども今は行列ができている」とのこと。ともかく早いところ恵那に移動すべし!ってことで、そそくさと中津川をあとにしたのであった。
恵那駅に到着し、栗に関して財布のひもが緩みっぱなしの我々は迷わずタクシーに乗りこむ。駅から山の方へ進み、まわりにはほかに何もないような通りに(失礼)「恵那川上屋 恵那峡店」はどーんと建っており、一目でわかるほど人が集まっていた。店に入るとカフェスペースから伸びる行列があったので最後尾につく。栗一筋を食べるための整理券を入手。店の中にも外にも席がありお客の回転は割と早い。10分くらいでレジにたどりつき、私たちは栗一筋を一人がひとつずつ注文した。かなり大きなサイズだが、みんなで分け合うという発想はない。こちとら、これを目指して遠方からやってきたんである。繰り返すがひとりは北海道からだからな!
で、冒頭の写真の「栗一筋」である。ひとつ1080円。小布施堂の朱雀が栗と砂糖のみのシンプルな素材だったのに比べて、こちらは生クリームやキャラメルソースも使ったケーキ仕様。しっかり焼いたさくさくメレンゲが内蔵されていて食感の変化も楽しめる。うん、モンブランだ。普通にモンブランだ。なのに普通に見えないのはなんでだろう、なぜか妖怪チックに見えるのはこれいかに。
栗一筋、麺(?)の最後の一本までおいしく食べきった。キャラメルソースのほろ苦さがよい具合。そしてまたタクシーで駅へ、そして電車で名古屋へ。名古屋では味噌カツや土手煮や大あさりや名古屋コーチンの焼き鳥を食べた。ホテルに戻り、買ってきた栗きんとんも食べた。美味であった。翌日は、コメダ珈琲のモーニングセットを食べ、昼食にはあつた蓬莱軒のひつまぶしを食べた。これでもかという名古屋メシのオンパレード、ご当地企業にしっかりお金を落とす私たちは観光客の手本である。
あとから、3人が買った栗の数を合計してみた。栗きんとんひとつは生栗1.5個分、「きのこの山」栗味は1袋で生栗1個分という具合にそれらしい換算を重ねたところ、3人で300個あまりの栗を買ったという結果に。300個って、多いのか少ないのかもはやわからない。胃袋とバッグにたくさんの栗を詰め込んで、三人はそれぞれ北海道、北陸、静岡へと散らばっていくのであった。その栗で私が作ったのが、渋皮煮(真夜中ひたすら栗を煮る)。
今回食べた中でのベストオブ栗きんとんは「しん」というお店のものだった。大きめの刻み栗が入ってしっとりホクホク。まだまだ数十個分の栗が待機しており、うれしいような焦るような。